Season3 【完結】

□序 野分立つ(のわきたつ)
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「あと、うちの両親的に言うたら“責任能力のない年齢”やねん、俺らも璃青も」
「…そうだけどさ…」

不服そうな顔をした璃青の向こうで、玄関のドアを開ける音がした。じゃんけんで負けてパシリに行っていた遊命が帰ってきた。自分のことが話題に登っていたとも知らず、暢気に帰ってきたことを告げている。
遊命の話から璃青の話へと移行したことに心残りはあるが、可児はそれ以上訊くのを止めた。

「璃青、今の話オフレコな」
「…うん」

璃青から聞いた話は、遊命の話とほぼ一致した。
所々抜けている詳細な部分は、本人に訊く以外に無さそうだと可児は判断した。

「あれ?」

遊命が待っているものだとばっかり思っていた可児は、誰もいない廊下を見て何や…と呟いた。
続きを訊こうと思っていた当てが外れ、仕方なく一人で教室を離れると、己れの行動を思い返して疑問が沸いた。
今更過去を聞き出した処で、遊命の火傷痕が消える訳でもないのに、なぜ知りたいと思うのか。
遊命に有無を言わせず、傷痕をつけた男に対して、素直に許せないという気持ちと、自分も遊命に同じようなことをしただろうという戒めだろうか?
願わくは、二度と遊命の前に、張本人が現れないことを。
これ以上、遊命を傷つけたくなかった。

「お、来た来た」

昇降口の影から遊命が、頭をひょっこり出して、可児を出迎えた。

「何や、帰ったんちゃうんか?」
「まだ、何か訊きたそうな顔してたからさ」
「…あ、いや…」

遊命は他人の機微を、鋭く察するところがある。
訊きたいことは山程あるが、璃青との話を秘密にしている以上、どう踏み込んでいいか糸口が見出だせなかった。

「えっと…どこまで話したんやっけ? 璃青がどうこう言ってたな」
「根性焼きのことじゃねぇの?」
「…あ〜、…そやな、何でそんなことになったん?」
「さぁ? 卒業式にボコったのが知られちゃったんだろ? 俺としてはさ、そいつが私立の中学に行くから、もう会わねぇと思ってやったのに、中学行ったら関係ねぇ奴らが絡んでくんだもん、たまんねぇよ」

可児は上履きを替え、遊命と共に昇降口を出た。

「卒業式ボコったんは、同い?」
「そう。ちょろちょろちょっかいかけてきたうぜぇ奴」
「中学のは?」
「二個上の先輩。何がしたかったのか、さっぱり分かんねぇけど」
「まぁ、牽制やろうなぁ…」
「でも、俺その一回だけでも、結構うんざりしてた。まだ続くのかって」

普段、過去のことを話すときの遊命は、悪びれることなく飄々としていることが多いのに、このときだけ表情が険しくなった。

「一回だけなんや」
「うん、その後大人しくしてたら、何ともなかったな」
「よう我慢したなぁ」
「ほら、さっきも言ったけど、りぃがいたからさ。でも、どうしてこんなことされなきゃならないのか、泣けばいいのか? 悪くもないのに謝ればいいのか? 色々考えて、全てが面倒臭くなって……自分も含めて、何もかもぶっ壊すことができたらな…って思ってた」
「あー…うん。あんな、そういうの」
「自分のことがどうでもよくなると、他人のこともどうでもいいやってなるじゃん。普通に『死ね』とか思っちゃうし。でも、俺が何かやらかして、りぃがとばっちり受けるのは、ちょっと違うからさ。あいつが抑止力になって良かったよ」
「足枷やなくて、抑止力か……」
「うん、結果的に犯罪者にならずに済んだし」
「何や、麗しいな。兄妹愛っちゅうの?」
「愛って……、キモいわ」
「ほら、俺は兄弟とか、いてへんからな」
「美化しすぎだよ。普通に喧嘩とかすんぞ」
「まぁ、それもありやろ」
「俺としては、もうちょっと大人しい妹であって欲しかったけどね。たまに戦利品持ち帰ってくるからさ」
「戦利品て?」
「…欠けた歯とか、名刺とか…」
「…歯ぁ…ですか?」

可児は驚きも含めて遊命に聞き返した。
どうやったら欠けた歯が戦利品になるのか、考えただけで頭が痛くなった。

「そ。あいつ、結構有名人なんだよ。ロードファイターみたいな?」
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