短編

□バレンタイン(井上秋羅)
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鍋は消耗品、と言い切ったアイツのために
という訳では無いが
使い物にならなくなった小鍋を新調するため、
調理器具売り場をウロウロしている。
男一人で。

『秋羅さんが選ぶものなら、なんでも』
なんて人任せな。

女性が使うものだから、持ちやすく軽いものや
色合いが鮮やかなもの、形が可愛いものなど
男の俺にはどれが魅力的なのかさっぱりだ。
美味いメシが作れたら、それで良い。
かと言って適当に選んでアイツが使いにくかったら、意味が無い。

(それにしても……)
さっきから視線を感じる。
店員の視線というより、
ケータイを向けられてるような。

チラリとそちらに目を向けると……

『何やってんだ?』『あ、バレた』
ケータイをこちらに向けて
ムービーでも撮ってたようだ。
『悪質なファンだな』
『カノジョの為に、ホワイトデーの品を選ぶなんて、秋羅さんったらもう!』

自分が小鍋を焦がしたくせに
お返しの品が貰えると思ってんのか?
そもそも俺はチョコ貰ってねぇしな。

『自分の買った調理器具で、愛しの彼女の手料理……とか考えちゃってます?』
『俺の方が絶対に料理上手だけどな』

たまのオフも、一緒にキッチンに立つのも
まぁ悪くねぇかな。


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