ダー芸ワンライ6

□9.聞くべきではないと分かっているのに
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『今日は帰れそうにないかも』

そんな意味深とも取れてしまうメールを春に送り
私は重い足取りで、出版社に向かった。

いかにも梅雨空らしい雲が広がっていて
今にも降りそうだ。
湿り気を帯びた空気が不愉快で
手にした資料の束も、心なしか重く感じる。

ここのところ春と私はお互いが忙しく、
顔を合わせる時間が少ない。
一緒に住んでいるのに、心が春不足に陥っている。
これは由々しき問題だ。



『おはようございます。
お待たせして申し訳ありません。
本日はよろしくお願いします』

案内された会議室のドアを開け
先に来ていた斎藤先生に挨拶をする。
今日は朗読会に向け、
本格的な打ち合わせをする。

久しぶりに会った斎藤先生は
少しだけお疲れのようだ。
そして、開口一番

『進捗どうですか?』と、
まるで自虐ネタのようにさらりと。

ははは、と苦笑いをしつつ席に着き
持って来た資料を広げる。

今日は帰れそうにない。
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