ダー芸ワンライ6
□9.聞くべきではないと分かっているのに
1ページ/3ページ
『今日は帰れそうにないかも』
そんな意味深とも取れてしまうメールを春に送り
私は重い足取りで、出版社に向かった。
いかにも梅雨空らしい雲が広がっていて
今にも降りそうだ。
湿り気を帯びた空気が不愉快で
手にした資料の束も、心なしか重く感じる。
ここのところ春と私はお互いが忙しく、
顔を合わせる時間が少ない。
一緒に住んでいるのに、心が春不足に陥っている。
これは由々しき問題だ。
『おはようございます。
お待たせして申し訳ありません。
本日はよろしくお願いします』
案内された会議室のドアを開け
先に来ていた斎藤先生に挨拶をする。
今日は朗読会に向け、
本格的な打ち合わせをする。
久しぶりに会った斎藤先生は
少しだけお疲れのようだ。
そして、開口一番
『進捗どうですか?』と、
まるで自虐ネタのようにさらりと。
ははは、と苦笑いをしつつ席に着き
持って来た資料を広げる。
今日は帰れそうにない。