短編

□退屈
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とある休日。
それなのに今日は用事があるからと、
彼女は朝早くから出かけてしまった。
俺も一緒にと申し出たが
『今日は女の子だけでお出かけだから』と、あっさり振られてしまった。

仕方なく俺は、いつもよりゆっくり時間をかけて入浴し、用意された朝食で腹を満たす。
普段彼女に任せきりにしている掃除や洗濯を丹念にこなし、買ったまま袋から出していない雑誌を読みつつ、ゆっくりした時間を過ごしていた。
特に腹は減らなかったが、時計は12:30を示していたので、適当にサンドイッチを作り、撮り溜めていたドキュメンタリーを見ながら一人で食べた。

(時間が流れるのが遅い……)
いつも彼女といる時は、あっという間に一日が過ぎてしまい、夜が来るのが寂しくもあったのに。
なんで今日に限ってこんなに遅いのだろう。
気持ちを切り替えて部屋に篭り、曲を作ろうとしたが、何も浮かばない。

(一人だとこんなに退屈だなんて……)
今までなら、休みの日でも音楽に向き合っていたのに、彼女と出会ってからは、休みの日はしっかり休むようにしている。
まぁ彼女といれば、色とりどりにいろんな事が起こるけれど。

自分の作ったサンドイッチがなんとも味気なく感じ、昼食をそこで切り上げた。元々そんなに腹は減っていない。

音楽も降ってこない。
眠気もやってこない。
空腹も訪れない。
溜息しか出ない。

『ただいまー』
退屈すぎて死にそうになっていた俺に天使の声が聞こえた。

『なんかいっぱい買っちゃった。
秋物の可愛い服がいっぱいあってね。
あとこれは新しくオープンしたケーキ屋さんのやつでビターチョコがかかってて春も食べられそうだからあとで一緒に食べよう?それからこっちは……あれ?春がサンドイッチ作ったの?お昼食べずに切り上げてきちゃったから食べちゃってもいい?でもその前に手を洗ってくるね』

両手いっぱいの紙袋。
冷蔵庫に入れられたケーキ。
止まらないおしゃべり。
彼女が帰ってきただけで
部屋の中に色と音が付いたような。

『はーるー?お風呂の換気扇が付けっ放しだよ?あと、もしかして掃除してくれた?それと洗濯も……って、そういえば雨が降りそうなの!取り込まなくっちゃ』


やっといつもの日常。
退屈なんて存在しない
カラフルで賑やかな──


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