短編

□心遣い
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なんだか喉の調子が悪い。
今日はJADEの皆さんのレコーディングに
コーラスとして参加の予定だ。
このままでは迷惑をかけてしまう。
朝からこまめにうがいをし、マスクも装着。
のど飴を舐めながら、
練習スタジオへと急いだ。

『おっはよー!あれ?風邪気味?』
朝からテンションの高い冬馬さんが
休憩所でタバコを吸っていた。
『おはようございます。風邪というか、喉の調子がイマイチで……』
そういうと、冬馬さんはさりげなく、吸っていたタバコをもみ消した。
『あ、別にタバコは関係なくって……』
『いやいや、少しでも負担は減らしたいし』
申し訳ないと思いつつ、その気持ちが嬉しかった。


レコーディングスタジオに行くと
秋羅さんがすでに到着されていた。
『おはようございます、秋羅さん』
『……おう、相変わらず早いな』
チラリとこちらを見た後、反対側の壁を見たかと思うと
加湿器のスイッチを入れてくれた。
『あんま無理しねーようにな』
何を?と聞くまでもなく
きっと彼も、私の喉を心配してくれているのだと思うと
心が温かくなった。

『遅れてすまない』
そう言って入ってきた神堂さん。
『おはようございます』といつも通りに挨拶をしたが
彼はそのまま、私のところまでまっすぐ歩いてきて……
『あ、あの?』
『……少し触れるぞ』
そう言って壊れ物を扱うかのように、
私の喉に優しく触れてきた。
少し冷たい手が、心地よかった。
『無理はしないほうがいい。医者には診てもらったか?』
『いえ、そんなに酷くはないので……』
『忙しいのは分かるが、のど飴よりも医者に診てもらう方が治りが早い』
確かに。
厳しくも、プロの彼の意見は有り難かった。

最後に到着したのは、夏輝さんだった。
『おはようございます』
この言葉を彼に言うのは
今日は二回目。
一回目は、同じベットの中で。
『うん、おはよう。喉、治った?』
『す、少しは……』
夏輝さんに聞かれると、なんだか恥ずかしい。
だってこの喉の原因は……

『あー、なるほど』
『夏輝のせいかよ』
『……風邪でないのなら、心配ないな』

皆さんの心遣いが、なんだか申し訳ない。
『な、なんだよ!俺は何も……!』
赤くなる夏輝さんを尻目に
他の皆さんの容赦ないツッコミが
夏輝さんに降りかかる。
『何も言ってねーよ』
『二人の様子を見たら分かるしな』
『……夏輝、ほどほどにしてやれ』

皆さんの心遣いが、
有難いやら、恥ずかしいやら。


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