短編

□雷雨
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レコーディング前のボイスレッスンに
付き合ってもらった帰り
神堂さんの車で送ってもらった。
でも外は凄い雨と風、遠くの方では雷も。

『凄い雨ですね』
『そうだな……』

もともとお喋りなほうではない二人。
こんな時、どうしたらいいんだろう。
ごく絞ったラジオから流れてくる音楽でさえも
雨の音でかき消されてしまう。

今日のレッスンは
実はそんなに上手くいったとは言えない。
私のそんな気持ちも
この雨のように流れてしまえばいいのに。

『っっ!』
稲光と、それに続く轟音に
思わず肩を竦める。

『雷……苦手?』
そっと伸びてきた神堂さんの左手が
遠慮がちに私の頭を撫でる。
彼のそれは、私にとっては特別。

『大丈夫だから。
もう少し、このままで』

その言葉が、手のひらが
彼の優しい眼差しが
どれだけ私の心を救っただろう。

だいじょうぶ。
雷も雨も、レコーディングもきっと。

私のこんな気持ちは
雨に流されて、彼に届けばいいのに。
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