短編

□節分(水城冬馬)
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これは奇跡に近いことなんだけど
今朝は俺の方が先に起きた。
久々のオフなのだから、
目一杯デートを満喫するのだ。
それなのこの眠り姫は……

『お姫様は、お目覚めのキスをご所望か?』
『……姫はまだ冬眠中デス』

可愛くない。
恥じらってコクンと頷けば
甘いキスでもしてやるってのに。

『もう暦の上では春だぜ!
うりゃりゃ!』

ベットの足元から
彼女の細い足首を探し出して掴み取り
有無を言わさず引きずり出す。

『キャーッ!やだっ、冬馬さんったら!』
白いシーツの中から
華奢な裸体が出てくるが
相手もなかなか手強くて。

『無理!えっち!セクハラ!』
訳の分からん罵倒を俺に浴びせつつ
ふかふかの羽毛で体を隠す。

ジタバタと足を動かすも
俺の腕力に叶うわけねーだろ。
静かにしないなら……

『……っ!』

綺麗に色ついた、その爪先に
キスを落とす。

ほら、黙らすなんて一瞬だ。

俺に見せるために
綺麗にしてるんだろう?
そんな気持ちを込めて
唇を爪先につけたまま
上目遣いで顔を見やる。

『お目覚めの時間ですよ、お姫様』

季節なんて
大して気にした事もないけれど
もうそんなに冷たくない足先に触れて
春が巡ってきた事を実感する。
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