ダー芸ワンライ5

□19.甘やかな眠り
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『お待たせ。お風呂どうぞ』

今日は色々あったから
いつもより長風呂になってしまった。
でも、おかげでリラックスできたし
湯船でぼんやりしていると
書きたいストーリーが浮かんでくる。
まだあやふやで、
ハッキリとした軸は出来ていないけれど。

『しっかり温まってきたか?』

ソファーに座って何かの雑誌を読んでいる春が
振り返ってそう聞いてくる。
コーヒーの芳醇な香りが
部屋を満たす。

『うん、もうホカホカ』
『……だが、まだ髪が濡れている。
乾かしてあげるから、
ドライヤーを持っておいで』

……やった!
実はちょっと、いや、かなり嬉しい。
春の手つきは絶妙で
彼の大きな手はとても心地よい。
ドライヤーを手渡し
いそいそと春の足の間に入り
あとはもう、目を瞑るだけ。

目の前には飲みかけのコーヒー。
そして読みかけの雑誌。
程なくしてドライヤーの音と
心地よい温風、春の大きな手。
完全にリラックスモードになり
思わずあくびが出る。
うつらうつらと船を漕いでいるのも
自分で分かっていた。

完全に落ちる寸前、
ドライヤーの音と風が止まり
かろうじて意識は途切らせなかった。
ふと目に留まった読みかけの雑誌。
それは先程、打ち合わせの時に聞いていた──

『あ……これ……』
『処分する山積みの雑誌の中にあったから』

やっぱり私も、この雑誌を貰ってたのか。
パラパラとページをめくり
例のアンケートを見る。
私と春のたくさんの目撃談とともに。

『お似合い、だって』
『そう見られているのは、ありがたいな』

器用にコードを綺麗にまとめて
ドライヤーを片付けた春が
前かがみになって後ろから
雑誌を覗く。
背中に感じる温もりと
程よい重さが愛おしい。

『どこに行ってもバレてるね』
そう言う私の髪を
春は撫でたり梳いたり。

『でも、今回のは撮影だし
周りにバレても遠慮はいらない』
そう言う春の胸板に背中を預け
私はもう、されるがまま。

『遠慮ってなに?』
クスクスと笑う私の意識は
もうほとんど飛びそうだ。

『こういう事、とか?』
笑いを含んだ春の声が
耳元でそう囁く。

春が私の耳たぶを食み
首筋の肌を味わった所までは
なんとなく覚えている──
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