ダー芸ワンライ5

□10.一年を振り返って
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『夏目も、心配していましたよ』

自分の足元が暗くなり
楠が立ち上がったのが分かった。

『下っ端のくせに、
編集長に噛み付いて。
先生はきっとまた書けるようになるから
今は少し休ませるべきだって』

……夏目にも心配をかけてしまったかな。

『何を根拠にと思ってたら
後から教えてもらったんですが』

自分でも、あの原稿は
ボツだなとは思ってたけど。

『俺も神堂さんもきっと知らないであろう
先生の秘密を知ってるとか言い出して』

ちゃんとした原稿は
まぁ出来たといえば出来たけど……

『なるほど……これがそのサイトですか』

……は?

気がついたら楠は
開きっぱなしにしていたパソコン画面を
まじまじと見ていた。

『入院中に見つけたそうですよ。
先生が別名で、
個人的に立ち上げたであろうサイトに
趣味で書いてる小説があるって』

『なっ……ちょっと……え?』

『あれだけのレベルの作品が
まだ書けるのだから
先生は腐ってないと。
へぇ……ちゃんと定期的に書いてるんですね』

『いや、これは……息抜き程度に……』

なんか、空気が……というより
話題もう変わってる?

『俺は先生のことは
だいたい何でも知っているつもりでしたが
いやぁこれは寝耳に水でした』

マズイ。
これは非常にマズイ気がする。

『本業そっちのけで
趣味に没頭ですか?』

『息抜きにネットサーフィンってさ
定番中の定番……じゃない?
それで色々調べてたら
簡単に投稿できるし
感想もすぐに貰えるし……
モチベーション上げるためにも
いいかなーとか……』

『そして本業の執筆は遅れるどころか
書けない、と。
本末転倒もいいところです』

これは私の直感だが
このパターンは、説教コース決定だ。


『書けたことは、書けたんだけど……
まだちょっと見直してないし、
もうちょっと時間が─』

『添削はこちらの仕事です!
さっさとデータを出しなさい!』

楠の、静かな怒りが
部屋に立ち込めて
半泣きになりながら
私は出来上がったばかりの作品を
データごと彼に渡した。

『それから、コレ』

ポンっと手渡された
A4サイズの封筒。

『あなたが電源をオフにしてるから
連絡がつかないって
出版社にわざわざオファーが来てました。
俺はマネージャーではないので
ご自分の仕事は
ご自分で決めてくださいね』
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