ダー芸ワンライ1

□18.前髪についた花びら
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引っ越し先のマンションに、
JADEのメンバーの冬馬さんが
住んでいることが判り、
そのおかげで?神堂さんの家の合鍵を
貰うという展開になってから1週間。
神堂さんは、自分の部屋に引っ越しておいでと言っていたけれど、
そう何度も簡単に引っ越すわけにもいかず…。
貰った合鍵も使わないまま、キーケースに入れたまま。

(そりゃ一緒に住めば毎日会えるし
嬉しいけれど…
なかなかそうもいかないよね。)

打ち込んでいたPCを閉じ、窓の外を見ると雨。
今日は1日、出掛けることもない。
そう思っていると、ケータイがメールを一件受信する。

『夕方には仕事が終わるのだが、会えないだろうか?』
(神堂さんからだ!)

会いたい、嬉しいと思う反面、
またマスコミに狙われても…と躊躇してしまう。
(レイトショーなら…周りも暗いし見つかりにくいかも…)

『はい、大丈夫です。
見たい映画のレイトショーがあって、
一緒に見に行きたいんですが、いかがですか』…っと。

すぐに返信があって、
仕事終わりの夕方に迎えに来てくれる事になった。

───────────────

時間になり、マンションの下に着いたとメールがきた。
急いでロビーに降りると…

『あれ、にぶちん?どこかへお出かけか?』
(うわ…冬馬さんだ…)

神堂さんが仕事終わったのだから
同じメンバーの冬馬さんも、
同じ頃に帰宅してもおかしくはない。

『なーんかお洒落しちゃって…
もーしーかーしーてー、
春とデート?』

すぐに見抜かれてしまい
顔が赤くなる。

『あらま、図星?
まあ、今回は邪魔しねーし、
ゆっくり楽しんでおいで。』
そう言って冬馬さんは、私の頭をポンポンと撫でて
エレベーターに乗って行った。

火照る顔を鎮めようとロビーを出ると
まだ少し雨が降っていた。
(良かった…少し涼しいから
頬の熱も引くかも。
傘で顔も隠れるし。)

傘をさして神堂さんの車まで行こうとしたら
神堂さんは傘もささずに走ってきて…
濡れてしまうので、慌ててさした傘の中に招き入れる。

どうやら、冬馬さんとのやり取りを見ていたらしく、
短いため息をついて
『まったくアイツは…油断も隙もないな。』
なんて文句言いながら、
何故か私の頭を触ってきた。

『神堂さん…?』
『あ、いや…その…前髪に花びらが…』
そう言って一撫でして、
『もう大丈夫だ』と言ったけれど……

(こんな雨の日に、花びらが?
それに今は傘をさしてるのに?)
不思議に思って上を向いたら
すかさず神堂さんの顔が近づいてきて…

(…ッ!)
傘で隠れているから
周りの人には見えないだろうけど、
まさかの不意打ちに、
せっかく火照りが冷めた顔が
また赤くなってしまった。

『前は冬馬に邪魔されたから。』
そんな言い訳した神堂さんだけど、
私は気づいてる。

花びらなんて、付いてなかったこと。
髪を触ったのは
先に冬馬さんに触られた場所だから。
見上げて花を探してしまった私に
バレないように
すかさず甘いキスを落とした事にも。

(そりゃ、前は冬馬さんに邪魔されたけど…)

神堂さんに促され、助手席に座る。
神堂さんは、何事もなかったようにアクセルを踏む。
私だけ赤い顔を見せてしまったのは悔しいので
ちょっとだけイジワルをする。

『神堂さん、さっき髪の毛についてた花びらって、桜とかですか?』
『…ん?あ、あぁ。
…いや、違うな。緑色の小さな葉っぱだったかも。』

ふぅん、と私は返事をして
その話はおしまい。

まだこの時期に、桜は咲いていない。
あの場所に、降り落ちてくるような樹木もない。
チラリと横目で神堂さんを見ると
赤髪の奥にある耳が
ほんのり赤かった。



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