ダー芸ワンライ6

□25.5キロ先を左折
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ズカズカと大股開きで、二人の席まで歩く。
今すぐこの会話を終わらせるために。

『おい冬馬!』
驚いた顔の冬馬と、俯いたまま顔を上げない彼女。
『おぅ、ビビった。なんだよ秋羅、そんな怖い顔して』

春が聞いたらきっとぶん殴ってるだろうな。
俺が代わりに殴ってやりたい。
お前にはデリカシーってもんが無えのかよ!
『お前、彼女に何言って─』
『─私を抱いたら、春は思い出してくれますか?』
俺の声に被さってきたその声は
何か懇願するような、助けを求めるような。

『今の春は、よく知らない女性を抱くことができるんですか?』
『いや、そうじゃねぇよ。ちょっと落ち着けって』
『もし思い出さなかったら?思い出すまでヤればいい?
まるでセフレみたいに?ねぇ?』

ドゴンっと大きな音を立てて、
俺は力一杯テーブルを叩いた。
『落ち着けって言ってんだろが!』

店内がしんと静まり、店員が止めに入る。
分かってる、分かってるんだ。
いつまでもこんな状況、正気でいられる訳がないって。
彼女だって、ギリギリの所で踏みとどまっているのだろう。

薄暗くて、深い闇の中で、膝を抱えて。
でもきっと、そこには春もいると思うんだ、っていうのは
俺の無責任な妄想だろうか。
春が彼女を、ひとりぼっちにさせる訳がない。
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