ダー芸ワンライ6
□23.拭えない違和感
2ページ/3ページ
『珍しいな、春が人前で居眠りなんて』
『眠れねーんだとさ、自宅では』
秋羅と冬馬の声が聞こえる。
『やっぱ、まだ戻らないのか?』
『すっぽりと抜け落ちてるっぽい』
ゆらゆらと船を漕ぎながらも
二人の会話が耳に入ってくる。
落ち着かない自宅よりも
移動中や休憩中に
小刻みに眠った方が楽だった。
『連絡取り合ってんのか?』
『さあな、そこまでは……』
退院のメールを送った後、
彼女からは『ゆっくり休んでください』とだけ返信がきたきり。
もう二週間も前のことだ。
それ以降はお互いに、何もコンタクトは取っていない。
彼女のことを思い出そうと考えはするが
その度にズキズキと頭が痛み、
すぐに考えることを放棄する。
仕事に没頭していた方が何倍も楽だった。
『悪い、遅くなった』
遅れてきた夏輝が来たことで
俺はようやく、目を開けた。
覚醒しきっていない視界が、まだぼんやりとする。
頭の中の霧は、まだ晴れそうにない。