ダー芸ワンライ6
□26.なにも遮るものはない
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玄関をくぐると、本物の暖炉があり火が灯っていた。
盆を過ぎた北海道では、既に気温は秋になっていた。
(確かここで……)
朧げな記憶を辿る。
ふかふかのソファーにほとんど沈み込むように包まれて座っている女性。
暖炉の温もりも相まって、あっという間にすやすやと眠ってしまって。
そしてあの時、誰かに声をかけられたんだ。
──彼女と出会えたキッカケに
感謝しなくてはいけないね
あの声は、一体誰だったろう。
何かここで、二言三言会話をしたような。
それよりももっと何か大切な事がここで。
──私は毎日、彼に恋をしています。
そうだ。確かここで
──不在さえも存在感を強くするというか。
俺は彼女を追って……
『すまないが、教会を見学させてもらえないだろうか』
受付のスタッフに声をかけると少し驚いた顔をしたが、すぐに俺を案内してくれた。
『教会はふたつございまして、森の教会と石彩の教会がございます。
森の教会の方は、本日お式がございまして立ち入れませんが、石彩の教会は見学可能です。他にも見学者がいらっしゃいますが、構いませんか?』
そうだ。森の教会はレナード・バーンスタインが滞在したこともあったと聞いた。
そこで俺はピアノを弾いて、隣には彼女がいたはずだ。
そして石彩の教会では……
『構わない。そちらを案内してほしい』