ダー芸ワンライ6

□25.5キロ先を左折
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彼女と再会してから、俺は早急に彼女のかけらを探した。
例えば本棚。
買った覚えはあるものの、買った理由が思い出せない彼女の小説やサインがある絵本。
例えばスマホ。
メールの履歴や写真フォルダには
数え切れないほどの彼女が残っていた。

どこかへ行った時のお土産。
写真の裏に自分で残した一言。
カレンダーに残された、丸みを帯びた文字。
別段探そうとしなくとも、
そこかしこに彼女の存在が、俺の周りに残っていた。
ただ俺が、今までそれに目を向けようとしなかっただけで。

(可愛い寝顔や、満面の笑顔……
それを俺は、あんなふうに泣かせてしまったんだな)
泣きながら抱きついてきた彼女の温もりを今もはっきりと覚えている。
それなのに、自分が倒れる前までの彼女の記憶は
全くと言っていいほど思い出せない。

額に触れた指や、抱きついてきた細い体に
ほんの僅かだけ覚えがあるような気がしたけれど──







『つまり、体に触れたら少しは思い出すって事じゃね?』
能天気に冬馬がそう提案した。
いや、コイツなりに真剣に考えているのかもしれないが。
『体に触れる触れない以前に、春はもっと彼女と向き合った方がいい』
秋羅も、そして夏輝も俺たちの事をずっと心配してくれている。
『思い出の場所とか、二人だけにしか分からない会話とかルールとか
そういうのがあればなぁ……』

それさえも思い出せないのだから、どうすることもできないのだ。

『写真が残ってるなら、そこに行ってみるとか。旅行とか行ったことあるんだろ?』

ツアーが終われば少しは時間がある。
その時に、写真に写っている場所に行ってみようと思った。
できるなら、彼女も一緒に。
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