赤鬼作 歌詞
□東京サマーセッション
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由依side
昔ながらの水色の布に黒や赤の金魚たちが悠々と泳いでいる浴衣。
長い髪をひとつに結ってお団子にした髪と、その白い首筋。
「お、おまたせ」
カランっと下駄の小気味のいい音を鳴らしながら1度家に帰った遥香と合流した。
理由は着替えたいとかなんとかで、今家から出てきた遥香は確かに浴衣を帯びていた
「あれ?持ってたんや、遥香」
遥香と一緒に祭りに行くのは・・・
記憶が正しい限りではきっと小学生以来な気がする。
小学生の頃は、浴衣なんか1度も着てきた事なくて、少しばかり胸がドキッとした
「いや、今年買ったの」
「ふーんそうなんや」
ここで、可愛いだとか綺麗だとか言うのは軽く受けられそうであえてなんも言わんかったけど
遥香の顔が少し不服そうになったのは見間違いやったんやろうか?
────
「早く!由依!!」
ついさっきまで不機嫌そうやったのはどこに行ったんか、屋台が立ち並ぶ通りにつくなりいきなり生き生きし始めた遥香
「遥香!ぶつかるから!待って!!」
半分引きづられるようになりながら、グイグイと中に進んでいく
「由依!あれ食べよ!わたあめ!」
昔っから変わってない、一番最初に食べるのはわたあめっていう流れ。
「射的やろうよ!」
売れ残ったような、中古品のような・・・
正直いって高校生が喜びそうにない品物ばかりの射的屋さん
それやのに、遥香は昔から射的屋さんのぬいぐるみとかお菓子とかが大好きでよくあたしにとらせてた
「なんかあるん?欲しいの」
もう高校生なんやし、さすがに片目のボタンがほつれた猫のぬいぐるみとか、所々錆びたロボットの置物はいらんはず。
そう、いらんはず・・・?
「えーっとね・・・あのイヌが欲しいかな」
まさかのチョイスされたのは、左右で耳の長さが違うじっとりと見つめてくるような目付きのイヌのぬいぐるみ
忘れてた・・・遥香って服とか食べ物のセンスはいいのに、ぬいぐるみのセンスだけはどうも外れてるんやった・・・
「あれでええの?」
別にかっこつける訳では無いけど・・・
ここで外すのはかっこ悪かったりするから、イヌのぬいぐるみにジッと焦点を合わせた
小学生の頃はあんまり集中してへんかった射的も、今はなんでやろか
妙に手汗を握ってしまう
ポンッ
空気が押し出される音と同時に、イヌのぬいぐるみがコテンと倒れた
「そこの彼氏さん!やるねえ!彼女かい?ほれ、おまけってやつだ。貰っときな」
威勢のいい、頭にハチマキを巻いた射的のおっちゃんは小学生の頃からあたしを彼氏だと間違える
そして、昔っから取った景品と同じもの、言わばオマケと言う名のペア品にしてくれる
「ありがと!由依!」
ふんわりと微笑んだ遥香の笑顔に何故か胸がキュッと締め付けられた
本当は気づいてる。
ずっと前から気付いてた。
あともう少しあたしが勇気をだせば届く距離やのに・・・
イヌのぬいぐるみを愛おしそうに抱き締める白く細い手。
繋ぎたい、繋ぎたい本音がポケットに隠れた。
派手な爆発音と共に打ち上がった真っ赤な花火。
そう勇気を出そう
遥香、あなたの事がずっと
ずっと前から。