リクエスト作品

□ひとつの頼り
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由依side

腕から伸びる細いチューブは弱りきった患者には情けない命綱

できるならこんな点滴なんか破り消してしまいたい

ぐちゃぐちゃに引き裂いて、自由になりたい

でもこんな事したら死んでまうってわかってるから
こんな小さな器具の言いなり。

嫌々生きてるだけのつまらん世界にだって楽しみはある

あたしの担当医の島崎さんとお喋りする事

喋ってみたら歳もあんま離れてなくて島崎さんの方が二、三歳上なだけ

「おはよー。眠れた?」

そう言いながらカルテとにらめっこ

「おはよう。おかげさまで」

にっこり微笑めばふんわりと暖かい微笑みが返ってくる

「なぁ島崎さん」

そう呟けば心配そうな顔でベッドに肘をついた

「あたしさ・・・あと何日やろ?」

そう言った瞬間、島崎さんの顔が暗くなった

「なんでそんなこと言うの・・・」

「っだって」

肩を両手で掴まれて真っ直ぐ目を向けさせられる

「あと何日だって生きられる。横山さんが生きようと思ってるなら」

いくらの島崎さんもそこは医者らしい言葉なんやな。

でもええねん、ちゃんと正直に言って?

「そんな言葉望んでへん。ほんまに聞きたいねん、あたしはあとどれくらいなん」

自分の病気が、そこまで軽くないって言うのは知ってる

もう長くないってことも

だからこそ残りの時間を大切にしたいやん、無駄な思い出にしたくないやんか

「本気で思ってるの?」

うつむいた島崎さんはどこか寂しそうやった

「もう長くあらへんのやろ?」

「っ」

地面にポツリと1滴の涙が流れ落ちた

「横山さんが・・由依がいなくなったら私は誰を思えばいいの?!」

声を荒げ、涙を伝わせてる島崎さんをみて思い出した

確か島崎さんは幼い頃から両親が他界してて親戚の家を転々としてたとか。

それで亡くした妹みたいであたしが他人に見えやん、って可愛がってくれてた

「ごめん・・・」

初めてみた涙で気持ちが全部洗い流されたみたいやった。

「また・・・私の前からいなくなっちゃうの・・・。また私はひとりになるの?もう・・・誰も失いたくない」

溜め込んでた感情が全部爆発したみたいに泣きじゃくる島崎さんをただ胸の中であやしてた

「大丈夫、消えやんから。そばにおるから」

島崎さんに泣いて欲しくない。

だってあたしの大切な、かけがえのない存在やもん。

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