赤鬼作 短編集

□期待の裏切り
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遥香side

キュッキュッっと白いボードに真っ黒な文字が滑っていく

時計をチラッと見れば丁度カチッと針が動いた

【キーンコーンカーンコーン】

録画の音が悪いのか、くぐもったチャイムの音が鳴り響いた

「はい、かいさーん」

そう言ってマーカーをボードのふちに置いた横山先生

横山先生は1年の頃から担任を持ってくれている関西出身の若い先生

確か・・・まだ22歳だっけ?

さほど年齢も離れていないせいか、生徒からの人気も高くて他の先生からも信頼されてる

「遥香ー、プリントいらんの?」

数学のプリントをひらひら宙に泳がせながら聞いてきた

「ん?いる」

プリントを受け取る前に横山先生の背後からギュッと抱きついた

「おー、どうしたん遥香、最近くっ付いてくるなー」

理由なんて聞かれたら・・・

きっと答えられないけど・・・なんでだろ?

とっても安心するから

力強く数秒抱きついた後ゆっくりはなれた

「じゃあ横山先生、また」

ふんわり微笑んで手を振ってくれた

────
お昼休み、皆より食べるの遅いからいっつもご飯の居残り組

友達はいつも待ってくれようとするけど、申し訳無いから・・・ね。

でも、このお昼の居残りも悪いものじゃない。

「やっぱりまだ食べてる・・・遥香、食べんのほんま遅いわな」

誰かのイスを引いてきて私の前に座った横山先生

「うるさい・・・」

「お、今日も玉子焼きやー」

そう言ってキラキラした目で片隅にある玉子焼きを見てる

「食べる?」

「え、ありがと!!」

ほら、こんな行動が先生らしくない、生徒みたいな感じがする。

本当は先生は職員室で食事を済ませるものなんだけどやっぱり横山先生の性格上、教室で皆と食べたい

って皆、って言っても居残り組。

つまり私ぐらいしか居ないんだけどね・・・

「・・・?」

いつまで経っても食べようとしない

あーね・・・玉子焼きを箸で挟んで横山先生の口元まで持っていった

そしたらおやつ待ちの犬みたいに、ぱくって食べる

「フフ」

「ん?」

ほんと、先生って感じが一切しない

「やっぱり美味しいわー、遥香料理上手いからな!」

「そう?玉子焼きは先生が食べてくれるからいつも作っちゃうんだ・・・」

正直言ったら玉子焼きはあんまり好きじゃない

でも横山先生は好きだし、あの食べた後の笑顔が好きだからお弁当には付き物のおかず

「あたしの為・・・か・・・そっか。嬉しいな〜」

そう言ってまたふんわり猫みたいに笑う

「横山先生が・・・喜んでくれたら私も嬉しい・・・」

ちらっと横山先生を見てみたらポっと頬が赤くなった

「なんなよー、可愛い事言うなー!」

髪がぐしゃぐしゃになるぐらい頭を撫でてくれた

「ップ・・・アハハ!」

こんな風に笑って、こんな風に抱き着いて、こんな風に頭を撫でてくれるのは・・・

そう長くは続かなかった。

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