Splatoon

□ラストフェスの後の話
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アオリside

「んもう!次は絶対勝つから!!」

「これがラストフェスやがな〜」

ハイカラシティ最後のフェス

アタシVSホタルちゃん、惜しくもホタルちゃんに敗れ、収録中は下唇を小さく噛んだだけだった

「お疲れ様でしたー」

ようやくカットの合図が入る

そんな声もぼんやりとした頭に入らなくて、収録だからと精一杯貼り付けた笑顔が固まっていた

「お疲れ」

「ひゃっ!ホタルちゃん?!」

なんの悪気も無さそうにキンキンに冷えたペットボトルが首筋に当てられ、一瞬ビシッと力が入る

「なんね?バトルの結果気にしとんの?」

いつも通りかったるそうな口調

けれど、ホタルちゃんの目は真剣そのもので真っ直ぐとアタシの目を捉えてる

「え?そ、そんなんじゃないよ!お疲れ様!」

「嘘ついたダメよ?アオリちゃん、疲れた顔してら」

こういう時のホタルちゃんは、本当にずるい

アタシのことなんでも理解してくれて、それが嬉しい時もあれば今みたいに戸惑ってしまう事もあるから

「ホタルちゃん・・・」

「ほら、言ってみ?アタシにやれることあったら力になるからな?」

素っ気ない、クールな中にも優しさがあって、いつもは冷たいのにその奥を見ると暖かな温もりがある

ずるいよ

ホタルちゃんは、ずるい。

きっとファンの人達だって知ってるんだ。ホタルちゃんのこのずるいとこ

「ううん!アロワナモールの新発売のホットケーキ気になっててさ、それの事考えてた!」

口で言っておいて、はたと思い直す

新発売のホットケーキなんて・・・
ないよね?

「お疲れ様でした〜」

固まったアタシをスルーしてホタルちゃんはスタッフさんに頭を下げている

「お、お疲れ様でs」

言い終わらないうちに強く手を引かれ体がガクンと前のめりになる

「ホタルちゃ」

それからホタルちゃんは一言も喋ってくれなくて、ただグイグイと手を引かれていく

アパートの扉の前、ホタルちゃんがポケットから鍵を取り出し、カチャッと小気味のいい音を出した時

ようやくその手は離された

「ホタルちゃん?」

そのままさっと靴を脱ぎ部屋の中に入ってしまった

あんなに心配してくれたのに、やっぱり怒ってるのかな

ホタルちゃんが心配してくれたのにアタシ嘘ついたから

ホタルちゃんはきっと気付いてる、新発売なんてアタシが嘘ついたこと

「入らんね?」

ドアの前で中に入るのを躊躇っていると、いつも通りのホタルちゃんの声が聞こえた

「え」

「そげなとこで突っ立っとったら風邪引ひくよ?」

中に入ると昨日作り置きしていたご飯を温め終わりテーブルに並べている所だった

「ほら、席つかんかえね」

「・・・うん」

怒ってないのかな、じゃあさっきの沈黙はなに?

食べ終わってから、珍しく「一緒に入ろ」とホタルちゃんから声をかけられ一緒にお風呂に入り、少しテレビをみてから、寝室の電気を消した

布団をかけてすぐ、ホタルちゃんの手がアタシの手を握った

「っ」

「ちょっとは落ち着いた?言ってみ?」

隣のホタルちゃんを見ると、ホタルちゃんはアタシに背を向けている

アタシが戸惑わんように、ホタルちゃんの顔を見て言葉につまらないように

ホタルちゃんが説明したわけではないけれど、小さくて暖かい背中が語っている

「アオリちゃん・・・寝た?」

何も言わず、ホタルちゃんの小さな背中にコツンと額を当てた

「ホタルちゃん、こっち向いて?」

声が震えないように深い深呼吸をした

「なんね?」

ホタルちゃんがゆっくりと寝返った

目と目が合う

ああやっぱりホタルちゃんの瞳って綺麗だな

白い頬、輝いたレモン色の瞳、少し垂れた大きめの目。

ルックスだってこんなに良いのに、歌唱力もある、それにほら、今だって

ホタルちゃんは中身がいい。

外見もそうだけど、心が一番いいんだ。

「アタシ・・・悔しかったんよ」

抑えようとしていたものが、ホタルちゃんに吐き出した途端、全てが崩れてしまった

嗚咽混じりで泣きじゃくって、ホタルちゃんのパジャマを涙で濡らした

「そっかそっか、辛かったんやね、よう頑張った」

ホタルちゃんはたったこれだけしか言わなかった

でもアタシにはわかる

ホタルちゃんがこの一言にどれほどの意味を込めて、背中をさすってくれたのか

ごめんなさい。アタシは今嘘をついている。

こんなにも心配してくれたホタルちゃんに。嘘に嘘を重ねた

だいぶ落ち着いた頃、アタシはそのまま泣き疲れてホタルちゃんの胸に抱かれながら眠った

瞼を閉じる最後に見たのは、珍しく、優しく微笑んだホタルちゃんの笑顔だった。
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