赤鬼作 短編集

□この先もずっと傍に
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ヨガside

あの日の言葉が頭に浮かびふっと消えてはまた浮かぶ

その繰り返しで、ソルトさんのあの何も映さない瞳が更に絶望の淵へと私を追い込める

ふと部室の時計を見てみればもう8時になろうとしていた

早朝からの冷気をたっぷり含んだこの部室は空気が良くて静か気でヨガをするのにもってこいの場所

私以外誰もいなくてその沈黙がまた心を休ませてくれる

コツン・・・コツンっと中身の詰まった重く、聞きなれたブーツの音が階段のほうから響いてきた

バカモノはスニーカー。おたべはローファー。マジックはヒール丈の靴

きっとソルトさんだ。

扉の音と、まだ髪が絡まりまぶたが下がっているレアなソルトさんが顔をだした

「おはようございます。」

「おはよ・・・」

少し折り曲がっていた背中をびしっと整えて心を無にし、なにも考えないようにする

ソルトさんとふたりっきりとか気が動転してしまいそうだから・・・

「ヨガ・・・」

ふと右側から声をかけられて体がびくっと震える

「はい?」

「あの時・・・期待してないなんて言ってごめん・・・。」

「え?」

目を開けてソルトさんを見つめたら何もうつさない鉄面で僅かに唇を動かしていた

「嘘・・・。あんたの事は期待してる・・・誰かの為に自分の体張る奴なんてなかなかいねえだろ・・・」

そう言ってわずかに目を細めた。

胸がカッーと熱くなって心拍数が上がってくる

組んでいた手と手にはじっとりと汗が滲んできて自然と手が震えていた

「この前は負けてすみませんでした」

1度手と足の組みを解いて立ち上がり真っ直ぐソルトさんを見つめた

「私がさくらに負けたのは事実です。でも・・・、これからも傍にいて良いですか」

そこまで言ったら今まで溜め込んでたものが全部吐き出されたみたいで急に気持ち悪くなった

「気にしてない・・・、あんたの後にはマジックもバカモノもおたべも居るだろ・・・。気にすんな」

ソルトさんの腕が伸びてきてふっと体が包み込まれた

ソルトさんが抱きしめてくれてるって気付くのに数秒かかって更に気分が悪くなる

「誰もいないし・・・いいんじゃないか・・・」

まるで私が泣いてしまう、と言うのを分かっていたような優しい口調。

「ありがとう・・・ございます」

今は部長ソルトさんじゃなくて・・・ひとりの女子高生として貴方をみていいですか?

胸に引き寄せられてその暖かさがまた身に染みる

込み上げてくるものがなんなのか、この高ぶった感情が何かは説明がつかない。

でもこれが感情の限界だと言う事は分かった。

────
「落ち着いたか?」

私の泣き声が止むとソルトさんの手がリズムよく頭と背中を往復する

「すみま・・・せんでした」

まだ若干がらみのかかった声は自分が「泣いていた」と言うことで頬がある意味赤くなる

いや、ソルトさんの胸でだぞ。

そんな私を見透かしたのかソルトさんが軽く笑った気がした

「あんたもちょっとは・・・甘えていいだろ・・・」

その後もドギマギしてる私にソルトさんの声が染みた、とか・・・

言うまでもなく分かるはず。

そっからはソルトさんのよく笑う姿が見れるようになった。

いや・・・

見えるようになった。

素っ気なくても優しくて、真面目。

そんな貴方に惹かれてるんだ

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