小説
□伝えたいこと
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「……あるよ」
夜トは目を逸らさなかった。青い瞳をぐっと狭くしてひよりの問いにまっすぐ答えてくれた。ひよりは夜トの冷えた手を包みこむ。次の言葉をただゆっくりと、時間をかけて待った。
「まだ言えてないことも、あんまし言いたくないことも山程、ある」
だから、とそこで弱々しく呟いて、夜トはその手を強く握りうつむいてしまった。きゅっと下唇をかんで落とした視線の延長線上に、一体何をおもうのか。何を悩むのだろうか。踏み入って欲しくない境界線を、夜トはまたひこうとしているのだろうか。
「ひより」
外の風が強く窓ガラスを叩いた。『開けてくれ』と、ギリギリを生きている者の、痛烈な叫びのようであった。またはそれは激しく魂を燃やして生きる者の主張のようでもあった。
夜トはそこでまた顔をあげて、今度はやわらかな表情をする。
「オレは、ひよりに言いたいことのほうがきっと多い。聞いて欲しいことがのほうが、もっと、たくさん」
そうしていくなかで自分が抱える「ひみつ」を、これから少しずつでもいいから必ず伝えるようにしていきたいのだと、思いをひよりの手のひらで包み込んだのだった。
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お題「ひみつ」
2016/4/23(土)23:20