長夢〜願いはたった一つ〜
□自分の姿
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部屋の入口のところに一人の平隊士が立っていた。
無言のまま刀を構えた異様な雰囲気に千鶴ちゃんは恐る恐る尋ねた。
「あ、あのなにか・・・」
「血・・・血を寄越せ・・・」
その瞬間全身の血の気が引いた。
千鶴ちゃんはがくがく震えた。
【羅刹隊】あの薬を飲んだ隊士だ。
「ひひひひひ!!!」
狂気に冒された表情。真っ赤な瞳。真っ白な髪・・・。
完全に自分を失っていた。
千鶴ちゃんは隣で震えている。声を出せば誰かが助けに来てくれるが他の隊士にも羅刹隊のことがばれてしまう。
私がなんとかしなくちゃ・・・。
そう考えていた瞬間、羅刹隊隊士は千鶴ちゃんに飛び掛った。
私は千鶴ちゃんを押し出し紅桜で受けようとしたが間に合わなかった。
ザシュッ
『ぐっ・・・』
隊士の振るった刀の切っ先が右の二の腕あたりを斬り裂く。
思わず顔を歪め左手で抑えてみるが血は止まらず腕をつたって畳を染める。
「血だ・・・血だぁぁ・・・・」
私は千鶴ちゃんに隊士の目がいかないように千鶴ちゃんからゆっくり離れる。
隊士は私の血のにおいにつられるようについてくる。
「だれかっっ!!!」
千鶴ちゃんは精一杯叫んだ。
「ひひっ・・・血だ・・血だ・・・はやく・・・」
隊士はじりじり近づいてくる。私は力なく紅桜を握りしめて、距離をとる。
ふと私の腕の痛みがなくなったのに気づく。
「ひゃははは・・・」
隊士が刀を振り下げる。私は紅桜を強く握りその刀を受け弾く。
「おいっ!!生きてるか!!?」
土方さんが真っ先に駆けつけてくれた。
「はいっ!!」
隊士と向き合ってる私の代わりに千鶴ちゃんが返事をしてくれる。
土方さんはすでに刀を抜いている。
土方さんの方を一瞬むいた隊士の隙に私は紅桜で背中を狙った。
「ぎゃぁぁぁぁぁ・・・・・」
一太刀を浴びたというのに隊士は刀を手にしたまま立ちすくむ。
『千鶴ちゃん!!』
私は千鶴ちゃんの手をとり土方さんのほうに駆け寄る。
廊下の走る音が聞こえ、原田さん、平助くん、永倉さんが現れる。