中編
□初恋の絵本
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ちらり、ちらり。
隣を歩く彩の横顔を見上げ、視線があいそうになるたびに顔をそらす。
さっきからその繰り返しだ。
(彩ちゃんのことやから、きっと気づいとるよな…。)
美優紀も止めなければと思っているけれど、彩の様子が気になって仕方がなかった。
それもこれも、昼間に見た相合傘と、クラスメイトのからかうような声が、頭の中から出ていってくれないせいだ。
『カップルの片割れが来たぞー』
美優紀が教室に入った途端、そんな声が飛んで来た。
見れば黒板にはデカデカと相合傘が書かれ、傘の下には美優紀と彩の名前が並んでいた。
あっけにとられた美優紀が立ち尽くしていると、どこからか引っ張られてきた彩がやってきて、たちまち教室中がワッと盛り上がった。
『気にしやんとき』
『…うん』
彩は美優紀がうなずくのを待ってから、勢いよく落書きを消しはじめた。
次々に飛んでくるヤジもさらりと聞き流していて、その姿は本当にカッコよく見えた。
けれど、それなのに。
今の美優紀には、相合傘まで書かれてたのに、彩からのリアクションが薄かったことのほうが気になるようになってしまっていた。
(…彩ちゃんは私のこと、なんとも思ってへんってことやんな)
からかわれた直後にもかかわらず、こうして二人きりで帰っているのも、彩が昼間の出来事を全くと言っていいほど気に留めていないからなのだろう。
(私ばっかり、ドキドキしとるんやなぁ)
「…やっぱ、気になるよなぁ」
そっとため息をついた瞬間、ふいに彩が口を開いた。
驚いた美優紀は「えっ、えっ」と言いながら、手をあわあわと躍らせてしまう。