Snake's head fritillary

□3話
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あの朝の一件は瞬く間に桐生家全体に伝わって、カズさんは組長さんを初め親子、果ては幹部一同にこっぴどく叱られたそうな。
後で、可哀想なほど顔を腫らせたカズさんがお詫びに来たときにその話を聞いて、私の方が申し訳ない気持ちになったのは言うまでもない。
そして、蓮実さんと同じく私は彼とお友だちになりました。



ここ最近、定着した私の仕事は毎日三食の準備と片付け、紳一郎さんの見送りと出迎え、そして着替えくらいで日中は暇をもて余している。
外出許可は一切出ないからせめて掃除や洗濯でもと思ったんだけど、いつもみんなに言われるのは、「梧桐家のお嬢(姐さん)にさせるわけにいかない」というもので、その度に私はいたたまれなくなる。


そして、今日も一人で本を読んでいた。

「茉帆ちゃん、入っていい?」
「はーい、どうぞ?」
声をかけられて、襖を開けたのは蓮実さんで。
「あれ?紳一郎さんと一緒に出たんじゃ……」
「オレだけ、先に帰ってきたんだよ。……ほんと、本好きだね」
「これくらいしか、暇つぶし出来ないし……わかってるけど、外出させてもらえないし」
「はは、仕方ないよね。じゃあ、おやつタイムにしない?オレ小腹すいちゃってさぁ、どら焼買ってきたんだ」
「あ、じゃあお茶の方がいいですね。用意してきます」
「いいよ、ここに居な。カズが持ってくるから」
言われるまま、座布団に座るとすぐにカズさんがお茶を持ってきてくれて、蓮実さんと二人でまったりとどら焼を堪能した。

「美味しかったぁ…ご馳走さまでした」
「気に入ってもらえてよかったよ」
「和菓子、大好きなんです。ここのどら焼初めて食べたけど、すごく美味しかったから、実家に帰るとき買って帰ります」
「………それなんだけど…まだ、帰るつもりなの?」
「……え?」
「茉帆ちゃん、自分が何でここに居るかわかってるよね?」
「……わかってる…つもりだけど…」
蓮実さんが何でそんな事を言い出したのかわからなくて、でも蓮実さんの視線からも逃れそうになくて、私はポツリと呟いた。
「………家のため…なんだよね、きっと……」
「家?」
「今、ゴタゴタしてる私を受け入れてくれてる桐生家には感謝してるけど……それに、私は家の詳しい事情にだって乏しいよ?それでも、紳一郎さんだって私を受け入れてくれたのは私が梧桐の娘だから……ただ、それだけ……」
「それ、ちゃんと紳一郎の口から聞いたわけ?」
「…それって?」
「茉帆ちゃんが、梧桐の娘だから側にいるってこと」
「この前、荷物を持ってきてくれた時、梧桐家の娘を預かってるから、下手なことはできんって…」
「…………はぁ、あのバカ。」
忘れることの出来ない言葉を伝えると、蓮実さんは頭を抱えた。
「……茉帆ちゃん、それ…もしかしなくても真に受けてるよね?」
「……本心だと思ってますけど…そんなに大きくない家だとは思ってるけど、それでも勢力拡大のために必要な婚約だと認識してる」
「うん、そうだろうと思った。今すぐその認識は外してほしいところなんだけど……この前の朝の騒動あったよね?紳一郎のあの慌てた姿、あれは本気だよ」
言いながら蓮実さんは私の横へ移動して、この前のようにポンポンと頭を撫でてくれた。
「紳一郎はちゃんと話を聞く奴だから、そろそろ二人で話しな?…オレらは、茉帆ちゃんがここに居てくれるのを待ってんだからさ」
蓮実さんの言葉に、私は小さく頷くことしかできなかった。
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