Snake's head fritillary

□1話
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女子なら、彼氏が欲しいって一度は思うよね!
男子だってそう。思春期なんか特に。
私だって思春期には恋をして、彼氏もできたりした。
だけど、絶対長続きはしなかった。

………気持ちは、わかるよ。私だって、同じ立場なら逃げると思うし。

だけど、今一度声を大にして言いたいのは……私は勇敢な彼氏が欲しいのです!



「お嬢!お帰んなさい!」
『お帰んなさい!!!』
「……………ただいま……」
古びた木造のでかい門を潜ると、屈強な男たちが列を作り、うら若い女性に向かってドスの聞いた声で挨拶をする。
……もう、お分かりかとは思いますが、私の実家は梧桐組というヤクザ業をしています。
彼氏ができてもまず家で挫折され、それを乗りきった人でも、さっき一番に挨拶をしてきた古株のテツさんの前に敗れるのである。

「テツさん、いい加減この出迎え止めてほしいんですけど……」
「なに、バカなこと言ってやがる。バカ娘。お嬢に何かあったらどうするんで」
………バカって二回言ったよね?
テツさんは、お父さんの親友で私を本当の娘のように可愛がってくれている。というか、各方面を組長として飛び回っている父に代わって、小さい頃から教育してくれたから私にとってもお父さんと同じような存在って感じなんだけど…。

テツさんは、他の人にもわかるようにちょっとは優しくしてあげなよ、と注意したくなるくらいには、愛はあるのに強面で口も悪く部下たちを怒鳴りつけていて、結構若い人たちから恐がられている。
こと私絡みになると、それはもう鬼のような形相で、一般人からすると顔云々よりも纏うオーラだけで足がすくみそうになるくらいには怖い。
だいたいそれで逃げるけど、恐怖で動けなくなった人をやんわりと追い出しつつ、テツさんを宥めることが出来るのは部下の中でも上の人だけである。
いつも、まずは自分に怯まねぇ度胸もちを連れてこいと言われてはいるんだけど、そんな人はなかなか現れてくれない。


前カレの苦い別れを思い出しつつ部屋に戻りながら、後ろから着いてきてるテツさんに話しかけた。
「……あの出迎え、若い人たち可哀想だよ?別に私の部下とかでもないんだし……お父さんの時だけにしたげなよ」
「ガキがナマ言ってんじゃねぇよ。ああやって下のもんにも教え込ませとかなきゃいけねぇんだ。今の若いもんの中にお前をやるわけにはいかねぇからな」
「………またその話?私は一般的な恋愛がしたいの!」
「はっ、青くせぇこと言ってんじゃねぇよ。この稼業の娘が一般の家に受け入れられるわけねぇだろうが。今までもそうだったろ?さっさと目を覚ますんだな。あ、今夜は逃げるなよ?組長帰ってきたら話あるからな」
「…………テツさんのバカ!」

吐き捨てるように言って、私は勢いよく部屋のドアを閉めた。


「……あんな風に言わなくてもいいじゃん…」
テツさんの言ってることは理解できる。
だけど、やっぱりハッキリ言われると乙女心は傷つくわけで、私は膝を抱えて座り込んだ。
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