Purple Lilac

□3話
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あれから新田くんは毎日学校に来ていて、一緒に帰らない代わりなのか、一日一回は私のクラスに顔を出したり私を屋上に呼び出したりするようになった。
というのも、何度か一緒に帰ってるうちに新田くんの家が私と真逆の方向だと知ってしまって、送らなくていいと必死で説得したからである。

最初はみんなも驚いてたけど、2週間ほど経つと新田くんが学校に来るのも私のクラスに来るのも慣れてきて、彼が何を言わなくても入口に立っただけでクラスメートが当たり前のように私を呼ぶまでになっていた。

余談だけど、あれからキスどころか手を繋ぐとかも一切なくて、やっぱり私は恋人というより友達としての気持ちが大きくて。


そんなある日、学校では明後日から試験週間に入ろうとしていた。

「………って訳で、テスト勉強したいのです」
「…すれば?」
「………あー、ごめん…言い方が悪かったみたいだね……試験終わるまで、あんまり会えないよ?」
「…………は?」
何となく定着した屋上のいつもの場所で新田くんに告げると、久々のヤンキー面で睨んできた。
最近は無表情ながらも柔らかい雰囲気だったから、眉間に皺が寄ると威圧感も抜群に出て余計に怖い。………本人には言えないけど。
「……いや…一応、これでも学年の上位をキープしておりまして……受験生の身としては、あまり落とすわけにいかないのですよ…」
「………で?」
「……えぇっと……一夜漬けは苦手なので、コツコツと勉強したいのです。……試験中って早く学校終わるし、勉強に時間を当てたい………」

まだ怒り気味の顔の彼に、私は少しだけ身を離しながら恐る恐る言うと、ポツリと意外な言葉が発せられた。
「………菓子」
「…………は?」
「……菓子作って。前に約束しただろ?」
「え、今日!?」
「もしくは明日。テストの日数分の量。…そしたら、我慢してやる」
怖い顔して、何とも可愛らしい内容の発言をしたもんだから、私は一瞬口を開けてポカンとしてしまった。
だけどすぐに甘党だったことを思い出した私は、ちょっと可愛いと思いながらふふっと微笑んだ。
「甘いやつ、なるべく種類多めに作るね?」
「…………この前のクッキーでいい」
「えー、一種類だと飽きない?」
「別に。今回、三日間だし……楓が作るなら何でも…」
「……わ、わかった……じゃあ、クッキー作るよ。でも、失敗しても文句いわないでよね?」
「わーったよ…」

私が作るなら何でもいいだなんて、殺し文句以外何でもなくて。
たまに投下される優しい言葉に、言われ慣れてない私は、今回も顔が赤くなるのを感じながら約束せずにはいられなかった。


(……あんなこと言われたら、作るしかないじゃん……てか、言われるこっちが恥ずかしい…ヤンキーのはずなんだけどなぁ……)

もう無表情に戻ってる横顔をチラッと見つめながら、気付かれないように小さくため息をついたのだった。
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