Purple Lilac

□2話
1ページ/2ページ

「薄情者。二人しておいてけぼりにしやがって」
翌日、教室で私は二人に詰め寄った。
本気じゃないけど、一言くらい言いたかったのだ。
「悪ぃ、悪ぃ。で、あれからどうだった?」
「…一緒に私の駅で降りた。で、そこで別れて連絡先交換した。以上」
「何気に進展してる……」
「ふだん、学校来ないみたいだし、これからどうなるかだよなー?」
「おい!新田がもう学校来てるぞ!」
「マジ!?」
クラスメートが教室に入ってくるなり、そんな話を大声でしたもんだから私は一瞬驚いたけど、すぐに昨日のことを思い出して自然と顔が綻んだ。
「え、何か知ってんの?」
「……ちょっとね」
「怪しー」
ニヤニヤと私を見る二人を無視して、後でメールしてみようかな、なんて思いながら私は廊下を眺めていた。


自分でも、昨日の今日での適応能力に驚いているんだけど…。

昼休み、何気なくメールを送るとすぐに『屋上、来い』って素っ気ない返事が届いたけど、次は家庭科で実習だから、それを説明したうえで断りのメールを送った。
その後も、実習の内容を伝えてメールは終わった。
一瞬、あの無表情を思い浮かべたけど、仕方ないって思いながら授業の準備をするために調理室へ向かった。


今日の実習はカップケーキとクッキーで、我ながら上手に出来たと上機嫌になって、お菓子を丁寧にラッピングし終え、片付けも終わって授業の終わりを待っていた。

「おい、井口!早く来い!」
「新田が呼んでるぞ!」
終わりを告げるチャイムが鳴って早々に男子が実習室を出たとたん、慌てた声で私を呼んだ。
「えぇ!?ちょ、待って。今行くし」
そっちの声の方にビックリしつつ、クラスメートの視線を一身に受けながら部屋を出た。
ドアの横の壁に凭れて待っていた新田くんは、私の姿を捉えると壁から離れた。
「……えっと…?…」
無表情のまま黙って手だけを出してきたから、私は怪訝な顔をしてしまった。
「………作ったやつ……」
「……へ?……欲しいの!?」
「……ねぇの?」
「…………いや……あるんだけど……え?」
まさかの新田くんの発言に驚きを隠せないでいると、手を出したまま新田くんの眉間の皺がだんだん寄ってきたから、私は慌てて両手いっぱいに持ってきた。
それを全部受けとると、新田くんは元の表情に戻って去っていった。

「……全部食べる気……?」
おやつに食べようかなとか考えて、味見程度にしか食べなかったから結構余ってたのをほとんど渡してしまったわけで。
男子にはちょっとキツいんじゃないか?と思いながら、ユキとケイに声をかけられるまで新田くんの後ろ姿を見つめていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ