Cornus officinalis

□3話
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「冴木、14時までにこれ仕上げれるか!?」
「……えっ……いやっ……えぇい!やってみせます!」
「頼む!!」
病み上がりに待っていたものは、連日連夜の事務仕事。
自分でいうのもあれだけど……いくら私が内部得意だからって、もっと配分をきちんとしたらどうですか、課長?
と愚痴りたくなるほどの無茶な注文が今週は続いていて、私はまた倒れそうになりながらも必死で業務をこなしていた。


そうやって慌ただしく過ごしていたある日、違う部署に用事があって廊下を歩いていると、自販機がある休養場所から賑やかな声が聞こえてきた。
そこは、私が歩いている廊下から曲がるとすぐの場所で、直進する際ふと気になって目を向けた。
そこには、尾田君と、彼と同じくらいの年齢の子が楽しそうに話していて、女の子は尾田君にベタベタ触りながら嬉しそうにしていたし、尾田君もいつもの人懐こい笑顔で接していた。
その姿は私から見ればすごくお似合いで、やっぱり尾田君も同年代の方が楽しく過ごせるんじゃないかって、思い知らされるには十分だった。
(……可愛い子だな…私ってほんと男運ないや………私のこと好きだとか言ってたくせに…バカみたい…)
二人の姿をこれ以上見てられなくて、私は足早にその場を立ち去っていった。




ー明日、朝から付き合え。昼飯は奢ってやるから。あ、酒は無しだぞー

と、偉そうな内容のメールが届いたのは昼休みだった。
送り主は私の兄である。
兄に彼女がいないときは、しょっちゅう二人で飲みに行くくらいには仲が良い。
今回のようなメールが来るのは、大抵彼女にプレゼントを贈るときで、自分で何を贈るかまで決めているにも関わらず、何故か私を店に連れていき意見を反映させるのだ。
そこまで出来るんだから最後まで自分で決めろと何回言っても直らないので、私はもう諦めてランチと愚痴目当てに付き合っている。
今回も買い物はさっさと終わらせて、時間一杯まで付き合わそうかな、なんて考えたりしていた。



「冴木先輩っ、今夜ご飯どうですか?」
「ごめん、パス!」
「えぇー?じゃあ、明日休みだから明日でもいいですよ?ついでに、遊びません?」
いつものように、夕飯を断ると何故かいつもは言ってこない休日の誘いを仕掛けてきた。
これには、私だけじゃなく周りもビックリしたみたいで煩く騒いでいるけど、私はなるべく表情には出さずに答えた。
「先客あるから、もっと無理」
「………え、誰とっスか!?」
「秘密。そういうことだから、久々の定時私は帰ります。では、お先に失礼しますー」
「お疲れさん」
「お疲れさまでしたー」
「ちょ……先輩!?」
藤原さんや係長などに捕まっている尾田君に見向きもせず、私は足取り軽く部屋を出ていった。

(今日は尾田君に関わりたくない……できればこれからも…)
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