Cornus officinalis

□2話
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あれから、私はなるべく仕事上の話をする以外、彼に近付かなくなった。
だけど避けても避けても、尾田君の方から近付いてきて…その度に携帯をちらつかせるもんだから、情けないことに従ってしまっている。



「………も、いい加減にしてくれない…?こんなオバサン相手にする必要なんかないでしょ?尾田君、社内でも人気者なんだし……」
「………すぐ寄ってくる女なんて、面白くないじゃん?ていうか、オレは游子さんがいいの!」
「何よそれ。面白いとか意味わかんない。っていうか名前呼ばないでよ、友達でも彼氏でもないんだから。私相手にしてたら、人生棒に降るわよ?早く諦めて。同年代の子と遊んで」
「そういうことじゃないんだけど……ほんと、つれないっスね…体は素直なのに。あと、キスさせてよ」
「…も…勘弁して……何回も言ってるけど、キスは絶対嫌。彼氏としかしない」
スーっと指で背中をなぞられ、ピクッと反応してしまったけど、何度も付き合わされた体はもつはずもなく明日も仕事があるからと布団を頭から被った。
……はっきり言って、今から自宅に帰る体力さえも残されてなかったのである。

そっぽを向いて、さっさと眠りについた私を悲しい目で見ていたなんて気付くはずもなかった。



「…で?実際のとこどうなのよ、尾田くんとは?」
昼休み、彩と二人で屋上でご飯を食べていた。
最近はまた仕事が忙しく、ゆっくりと休憩を取るのは久しぶりだったから、外の空気を吸いながらのランチは気分転換になるはずだったんだけど…
「別に……っていうか何で今、尾田君の話なのよー。別の話題にしようよー?」
「やーだよ。游子が新しい一歩を踏み出すかもしれないチャンスを見逃したくないし。何でそんな頑ななの?尾田君、あんなに熱烈なのに……」
「……それよ…その熱烈さが困るの…」
最近になって、尾田君は社内でも堂々と夕飯の誘いをしてくるようになった。
私は毎回断るんだけど、さすが上司のお気に入りというだけあって、たまに部長の後ろ楯が付いてくる。
私たちのやり取りは、部内ではちょっとした定番コントのような感じにもなってきて、今では周りも微笑ましく見ている状況なのだ。
ちなみに夕飯の誘いと夜の誘いはまったく別の話で、夕飯を断っても情事だけ付き合わされることもある。



「私は、仕事が楽しくできればそれでいいの……恋愛なんてツラいだけじゃん?」
「尾田君は違うかもしれないじゃん」
「私みたいにやさぐれてるとね、全部を包み込んでくれる器の大きい人じゃないと無理だって気付いたの!それに……尾田君は憧れを恋愛だって勘違いしてるだけ。現実に気付いたら、すぐ他に行くでしょ?そんなの目に見えてるよ」
「游子……そこまで重症だとは思ってなかったわ…」
「まぁ、私も最近になって自分の恋愛観に気付いたからね…ある意味、尾田君のおかげかも?」

自分の中でも、脅しにも似た今のセフレ的状況はそろそろ潮時にしなきゃなと決心が固まりつつあった。
このままだと、引き返せないところまで足が浸かりそうな気がしていたから。
私はまだ、恋愛をするのが怖いのだ。
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