Physostegia

□1話
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「詩織ー、お迎えだよー」
「はぁい。…じゃあ、また明日ね」
「うん、またねー」

「詩織、羨ましいなー。東條君と登下校できるなんて」
「二人とも大企業の御曹司に令嬢だもんね。…あんまり見えないけど…」
「はは、確かにねー。二人って実際付き合ってんのかな?」
「さぁ?そんな噂聞かないけど…狙ってるの?」
「…やっぱ無理かな…なんか、あの間には割り込めない」

そんな話をクラスメートがしてるなんて夢にも思わず、私は教室まで迎えに来てくれた彼と下駄箱へ向かった。
彼、神は東條グループの社長の次男で、私は神尾財閥の一人娘である。
一応、有名企業である両家だが親同士もかなり良好な関係を築いていて、最近はそれがもっと密になろうとしていた。

「詩織、今日は兄貴と打ち合わせだろ?」
「………うん」
「今夜はパーティーもあるんだよな?」
「……うん」
神の質問に歯切れ悪くしか返事ができない理由がある。

私は、神のお兄さんの京さんと婚約中なのだ。
今から結婚式についての打ち合わせが入ってる。
親同士が決めた政略結婚…になるのかな?
まだ、世間には公表していないのが唯一の救いだけど。
私が好きなのは……
チラッと気付かれないように、靴を履き替えている神の姿を見つめた。


「ただいま」
「お邪魔します」
「あぁ、おかえり。二人とも。詩織ちゃん、ごめんね。今夜のパーティーにまで呼んでしまって」
「いえ…それは構わないのですが…」
「兄貴、いくら打ち合わせとパーティーがあるからって、直接来させることねーだろうよ?」
「打ち合わせの予定だったんだけど、パーティーの時間が早まりそうなんだ。神、今夜はお前にも出席してもらうから」
「えー…勘弁してくれよ…」
「駄目だ、用意しろ。詩織ちゃんもこちらで…」
「あ、はい……」
いつもは、免れてる神の出席を有無を言わさずさせるなんて、どんな重要なパーティーなんだろうかと少し不安になりながら、私は京さんの後ろをついていき部屋に入った。
「今、メイドを呼んでくるから座って待ってて」
「わかりました」


「……はぁ、本当にこれでいいのかな…私は…」

父に話があると言われたのは、数ヵ月前のこと。
その時に告げられたのは、東條グループの息子と結婚するんだ…というものだった。
その時に聞けば良かったのに、私は勝手に相手は神だと思って一も二もなく承諾した。あのとき、完全に京さんの存在を忘れていたのだ。
で、婚約者としての立場で会うことになった席に現れたのは、兄の京さんだった。
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