Snake's head fritillary

□2話
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『お帰んなさい、若さん!!』
「あぁ」
「……お帰りなさい」
どこのヤクザもすることは同じらしく、紳一郎さんを出迎える様子を玄関で百合さんと眺めつつ、私も声をかけてみた。
「若!この荷物、全部部屋っすか?」
「あぁ、全部俺の所へ運んでくれ。……大事に扱えよ」
「へい!」
「お前も来い」
紳一郎さんの後ろから、数人がダンボール箱を抱えてぞろぞろと部屋へ向かうのを不思議そうに見つめていたが、紳一郎さんに声をかけられて私は慌てて部屋へ向かった。

部下の人たちが部屋を出ていったあと、昨日と同じように紳一郎さんの着替えを済ませると声をかけられた。

「……お前の物だ」
「…………は?」
「…箱の中身。」
「………え、これ……全部!?」
「そうだ」
ある意味、プチ引っ越しするんじゃないかと思わずにいられないのは、箱が10個以上あったからだ。
恐る恐る一つを開けると、中にはぎっしり詰まった見慣れた本が入っていた。
「……え?」
次を開けるとまた本で。
すべての箱を開けると、半分が本で半分は服だった。
「………どうして…」
「お前の家に寄っただけだ。しばらくは退屈しないだろう」
「……あ、りがとう…」
「梧桐家の娘を預かってるからな。下手なことはできん。」
「…………っ…!?……そっか……」
服を片付けながら、私は唇を噛み締めた。
自分がここに来た理由を忘れていたわけではないし、自分家がこの業界でどれほど価値があるのか知らないけれど、やっぱり家柄かと思うには十分で。

私はこの夜、紳一郎さんが寝たあとそっと部屋を出ていった。




トン、トンー

「………結局あんまり寝れなかったなぁ」
朝食の準備を一人でしながら、私は小さく欠伸をした。
あれから一人で庭を眺めてみたりしてたんだけど、夜中になるにつれて外は怖くなって、部屋から本を持ち出し台所で読みふけっていた。
何度かうたた寝はしたけど、熟睡は出来なくてそのまま朝食の準備に取りかかったのだ。

バタバタバター
「……え、…何事!?」
「…お、前っ……はぁ、……」
ドタバタと激しい足音がして、何事かとびっくりして包丁を持ったまま振り向くと、入口に息を切らした紳一郎さんが立っていた。
「……おはよう、ございます…?………え…?」
一応挨拶をしてみたが、眉間に皺を寄せたまま近づいてきた紳一郎さんに抱き締められて、私は頭が真っ白になった。
「………何で居ない…」
「………は?」
「……起きたら居なかったから」
「あー……時間もったいなくて、早めに朝食作り始めたから……」
「……俺を起こしてから行け」
「………ごめん、なさい?」
ぎゅっと抱き締めながら言うものだから、昨日のモヤモヤが残りつつも一応、謝った。
「…………って、私包丁!!ちょ、動かないで、置くから」
「………姐さん!何やってんすか!!誰かー!姐さんが若を殺ろうとしてる!!」
「なっ…………ちっがーう!!!」

早とちりな、カズさんのおかげでバッチリ眠気が飛んだ朝を迎えたのであった。
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