傾籠

□3話
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「……榎木?」
体育祭の片付けも無事に終わり、後夜祭に参加しないオレは帰り際裏門の所で榎木の姿を見かけた。
誰かと電話をしてるようで、気になって少し見てるとすぐに男が現れた。
そいつを確認した瞬間、榎木の顔には笑顔が広がって手を振りながら嬉しそうに駆け寄って行った。
「…聖也ー?何してんの、早く乗りな?」
「……………あぁ」
(あんな顔……一度も…)
胸の中にドス黒いもんが広がっていくのがわかり、今すぐにでも確かめに行きたかったけど呼ばれた声に留められ、仕方なく車に乗り込んだ。



「いつ、向こう行くの?」
「んー、明後日に戻る。ちなみに明日の予定は?」
「特にないよ。家で本でも読もうかと思ってたくらいだし」
「ラッキー。じゃあ、今夜遅くまで遊べそう?」
「帰って聞いてみる…てかゴメンね。家まで着いてこさせて…」
「別に。いきなり誘ったのオレだしな」
最近のこととか話ながら家に戻ると、たまたま玄関先にお母さんが出てきていた。
潤の姿を見て、何か勘違いをした母は私に色々と準備をさせながら潤と話しつつ、最終的にニコニコと手を振りながら見送ってくれた。
「……久々におばさん見たけど…」
「あー、ゴメンね。何か付き合ってるって勘違いしてる」
「ナルホド」
だから、この鞄な。と私が持っている少し大きめの鞄に目をやりながら潤は苦笑した。
それから、食事に行って同級生のこととかいろんな話で盛り上がった。
久しぶりに会った私たちには中学時代の話ひとつでも懐かしい思い出で、気付けばあっという間に時間が過ぎていた。


「楽しかったー」
「オレも。………なぁ、もっと一緒にいないか?」
「………潤…」
潤の言ってることが何を意味してるのかなんて解りきっていて、一瞬躊躇ったけど頭に浮かんだのは昼間の南くんの光景で。
今頃、あの女の人と…なんて考えたら私に罪悪感なんてなかった。
(……そもそも、付き合ってなんかないし)
そして、私は潤についていった。




「………オレ、緊張してるわ」
「はは、実は私も…」
「…今さら待ったはナシだぞ?」
「そんなこと言わないよ…」
昼間の光景を忘れたくて、私は自分から唇を重ねた。
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