短編集
□文豪ストレイドッグス編
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コツコツコツ……
…僕はとある探偵社の階段を上っている。格好は男装をしていて、長めの防寒外套と学生帽を被り長い髪を結って帽子にしまっている。
そして外套に隠れた手には傷ついた子犬を抱えて、自身にも世に云う大怪我をしているがあまり気にしていない。
階段を上りきりその扉を開け放った。
そして、傷や気持ちの焦りなどを悟られぬよう元気なふりをし…
「たのもう!」
探偵社side〜
「太宰!!仕事をしろ!」
「国木田君ってば朝からカリカリしちゃって〜将来ハゲちゃうよ?」
「…朝から元気な事だねぇ?」
探偵社お馴染みの二人組が毎日の恒例のような言葉を発しあっている。それにあきれる女史与謝野晶子と
「朝から楽しそうですね♪」
明るい笑顔を見せ目を輝かせている少年宮沢賢治
「いい加減にしろ。話が出来ぬだろう。」
先程までの騒動が嘘みたいに静まり返った。そう、この男こそ探偵社を設立した福沢諭吉だ。
「…そんな事はどーでもいいからさ、さっさと終わらしてよ〜駄菓子を食べたいんだから。」
机に腰を下ろし足をばたばたとばたつかせていて暇そうに云う人こそ名探偵江戸川乱歩。
「それでは、今日の予定を…」
「たのもう!」
鶏が鳴いたような元気な声がし皆の目線は福沢から探偵社の入り口へと移る。
「……!」
少し目を見開き驚く福沢。とっさに乱歩の方を見るが一瞬の事ですぐに入ってきた田舎じみた外套を着ている者へと視線を戻した。
「…ここが武装探偵社だろう?そうだよね、そうに違いない。僕はここにと或る依頼をしに来たんだよ。話を聞いてもらえるかい?聞いてもらえるよねぇ?」
早口に告げコツコツと靴音を響かせながら部屋へと入ってきた者に皆の目線は釘付けとなっていた。
「…依頼ですか?じゃあこっちにどうぞ〜」
「あぁ、依頼さ、依頼だとも。案内してくれるのか麦藁の少年よ、感謝しよう」
「…はい、どうぞ〜。あと、僕は宮沢賢治って云います。宜しくお願いします!」
ニコニコ晴れやかな笑顔を向け入ってきた者に対して案内をしている賢治。少々呆気にとられている国木田。顔には出さないが内心違和感を覚えている福沢。そんな時…
「…待って。依頼なんて、嘘でしょ?…て云うか君、女だよね?どうして男の格好なんてしてるのさ。」
「もっと云えば、今すぐ手当てを受けないと、君は明日になっても目覚められないんじゃない?」
応接室に案内をしようとしている賢治
それについていこうとしていた二人の背中に向かって乱歩は問う。その乱歩の顔には黒渕の眼鏡がかかっていた。
「…へぇ。少しはやるんだ。僕を女だって見破ったの、貴方が始めてだよ」