あやかし幻想物語

□第六話 紫炎の災難
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 ここ数日、紫炎の機嫌がすこぶる悪い。
だからと言って寮の住人に当たり散らしたりする事はないが、いつ見ても不機嫌オーラが全身からじわじわと滲みでていた。
 と言うのも、連日雨が続いていて洗濯物が思うようにできないのが原因だ。天気予報を見てもずっと雨マーク。
「くっそ。洗濯モンが溜まって仕方ねえ」
 洗濯場に日に日に増えていく洗濯物。その洗濯物の山を前にして紫炎は盛大な溜め息を吐いた。
「ただいま〜、紫炎〜洗濯物〜……ひっ!!」
 バイトから帰ってきたばかりの黄萩が洗濯物を持って洗濯場を訪れた。紫炎に声を掛けるや否や、ぎろりと鋭い目で睨まれて体を硬直させる。
しかし、その視線の理由に気がついた黄萩が困ったように笑みを浮かばせた。
「そっか、雨続きだもんね……」
「ああ。まったく、雨でも洗濯物は毎日出るし、コインランドリーなんて行ってたら金がいくらあっても足りねーし……部屋干ししたらくせーって文句言うヤツもいるし」
 黄萩が持ってきた洗濯物を受け取り、溜まっている洗濯物の上に置くと紫炎は再度溜め息を吐く。
部屋干し臭いと文句を言う一人だった黄萩は、引きつった笑みを浮かばせて誤魔化してから首を傾げさせた。
「へへへへ……。ん〜、でもこの時期にこんな雨が続くのも珍しいよねぇ」
「いちんちだけでいいから晴れてくんねーかなぁ……ほんと、いちんちでだけで良いから」
「切実だなぁ……。まぁ、着るもの無くなっちゃうしね」
「みんなの布団も干してーし。ったくじめじめじめじめとよぉ。あ、黄萩帰って来たならメシにしねーとな。準備は終わってんだ。広間行って待ってろよ」
「……ははは、うん……」
(なんてできた主夫なんだろう……)
 今日も完璧な主夫ぶりを発揮している紫炎の様子を見て、黄萩は心の中で密かに呟き広間へと向かった。
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