MAIN

□たどり着く先に
2ページ/3ページ

「おー?フランじゃン。お帰り」

先ほどの敵の息の根を容赦なく止めて片付け、

フランが隊服に付いた汚れを取り払っていると裏の通りへと

パタパタと数人の足音が近づいて敵の仲間がきたのかと

思わず身構えそうになったが、そうではなく

後処理をまかされた部下がフランの元へと到着しただけであった。

街のはずれに迎えがきているというのをこちらにきた部下から連絡を聞き

一刻もはやく本部に帰ってシャワーを浴びたい気持ちに駆られ

足早になりつつも街のはずれへと来れば、

そこには黒い高級車が街灯に沿った感じに停車されていた。



街灯に照らされた車の運転席のドアの前に立ってフランの帰りを待っていたのは、


「なんでアンタがココにいんですかー?」

「しししっさあなー?でも、オレが直々に迎えにきてやったんだから感謝くらいしろよー…って、おいっ」

迎えと聞いて普通にフランは部下の誰かと思っていたが、

そこにいたのはここにいるはずのないベルだった。

「センパイに聞いたミーが馬鹿でしたー、…ってかミーすごく今、早く帰りたいんでー」

何かベルが言っていたのをことごとくスルーし

高級車といわれるであろう光沢と艶のあるドアを躊躇なく少し乱雑に開き助手席に座る。

はやくかえりたい思いでいっぱいなフランの行動からは

少しの焦りが読み取れた。

そんなフランの行動をみて苛立ちと呆れをかき混ぜたため息を吐き、

続いてベルもドアを開き、運転席へと座る。

そして、ベルはハンドルの近くに設置されたキーであるボタンを軽く指先で押し込む。

ボタンを押せばエンジンが掛かり車はブゥンと控えめにだが音を立て始めた。




「センパーイ」

「…あん?」

「くれぐれも事故らないでくださいねーセンパイが運転するとか

どう考えてもお星様になれといってるようなモンです。ミーはマジでこわいですー」

「おい、カエル…オマエ、オレがそんなヘマすると思ってんの?」

「センパイの運転からして十分に考えられますー」


容赦ない言葉をフランから浴びせられ、ベルの顔がピクリと反応し引きつる。

帰ってくるのがおそくなると聞いて、無理やり部下たちに混じって迎えにきたら、この態度だ。

つくづく可愛くない後輩、とベルは思いながら車を走りだした。





車を走らせアジトへと着いたベルはエンジンを切り、車を停止させる。

フランを迎えに行くときは長い距離かと思ったが、帰りはそれほど時間は掛からずに、本部へと着いた。

「…ついたぞ」

助手席に座るフランに声をかけたが、応答がない。

隣を見れば、項垂れるようにして寝息をたてて眠るフランがいた。

そういや、 走行中に一度もコイツの声が聞こえなかったな…、と思い出し納得する。

ふと、視線をフランから後ろの後部座席へと視線を向ける。

そこには、横に少し長い長方形の白い箱が置かれていた。

これはフランを迎えに行く前に買ってきたものだ。

中にはいっているのは、焼き菓子の詰め合わせ。

迎えに行っている途中に偶然、焼き菓子を売っている店を見つけ、

フランが菓子好きというのを思い出し少し時間を割いてその店に寄った。

店の奥のカウンターにいる店員に頼み適当にチョイスをしてもらい焼き菓子を箱に詰めてもらったもの。


「おい、フラン起きろっ」

再び視線をフランに戻し、いまだに寝息をたて起きない彼の体を揺さぶる。




ぐらぐらと体が左右に行ったり来たりと揺れる感覚がして目を覚ましたフランは瞼をあけた。

もちろん揺らしているのはベルしかいない。

「わーわー、やめてくださいー起きてますって。ミーは起きてますー」

「うるせー、しっかりと寝てやがったじゃねーかよ」

フランが目を覚ましたのを確認したベルは「アジトついたから降りるぞ」と声をフランに声を掛けた。

「つか、車ン中で寝るほどそんなに眠かったのかよ」

「あ、それはーベルセンパイの運転がこわかったんでー気づいたら…」

寝てましたー、と言い放つフランに少しの苛立ちを覚えながらも、グッとこらえる。


車のドアをあけ外にでれば、夜空が出迎える。

ベルに続きフランもドアをあけ、外に出る。

「あ、フラン。後ろの席においてあるヤツとれ」

「なんですかいきなり。軽いパシリですかー」

「いいから」

「…?わかりましたー」

なんなんですかー

と言いつつフランは後ろのドアをあけ後部座席におかれたソレを手にとり

バタン、とドアを乱雑に片手で閉める。

「白い箱ですねー、コレなんですー?」

と言うフランの顔からは警戒や、疑問とも読み取れる。

「ししし、箱ン中開けてみ」

とりあえず、箱を開けろと促されたが

この堕王子のことだ、なにか仕掛けてあると考えながら

警戒してゆっくりと箱を開く。

「っえ?お菓子、ですか?」

中身は何かのドッキリや仕掛け…

ではなく色とりどりの菓子。

てっきりベルからのシュミの悪い嫌がらせに値する仕掛けかと

勝手に決め付けていたので、フランは驚きを隠せなかった。

「ソレ、オマエにやるよ」

「え?…あ、ハイ。ありがとうござい、ます…」

「ン、行くぞ」

とそれだけ残してベルはアジトへと歩いていく。

「あ、ちょっと、センパイ待ってください!」

離れていく彼を咄嗟に呼び止めればベルはこちらを振り返る。

「あんだよ」

「あの、このお菓子…一緒にたべませんか…?」

ヒュウ、と二人の間を風が駆け巡る音が聞こえた。

それとほぼ同じくしてフランは

今、自分が言ったことにハッと気がつく。



「…マジで?ししし、いーぜ」

とベルからの返事が返ってきたが、

「なしです!今のはなかったことにー…」

「なンねーよ」

何を言っているんだとフランは後悔をした。

「じゃ、オレの部屋でいい?」 

「だから人の話聞けっ…ん、ぅ」

距離を詰めてきたベルに顎を持ち上げられ

その言葉の続きを言わせないと言いたげに

キスをされた。



「セン、パイ」

「しし、やっぱキスは相変わらず下手だな」

「…っ!」

「部屋で待ってるぞ。」

早く来いよ、と言い残して今度こそベルは歩き出した。

歩きだす前に微かに楽しそうに笑っていたのをフランは見た。



咄嗟にベルにキスをされた口元を右手の甲で隠しつつ

左手に抱きかかえている菓子の入った箱をみる。


「あーっ、もう…」

突然のキスに絶対、赤くなった。

それでなければ、右手の甲にかすかに当たる頬からの焼けるような熱はなんだろうか。


ベルの部屋に行かないという選択肢はもちろんある。

しかし、どの道ベルの部屋に行かなければ、

フランの部屋に押しかけてきて強制的に連れ出される。

そのことは何度も経験していることだからわかる。

箱に入っている菓子をみていれば

当然、ベルの姿はどんどん小さくなっていき

ベルとフランの距離が広がってゆく。


「…とりあえず、まずはシャワー浴びたいです」


任務を終えて帰ってきたのだからというのと、

全く体から沸き起こる引くことのない熱をどうにか冷ましたい、


その後でベルの部屋に行くかどうするか考えよう。

といっても、もう答えはひとつしかないが。


前を見ればベルの姿はもうみえなくなっていた。


 


 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ