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□この気持ちは届くはずなく
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ひっそりと夜の暗さが増し、
あたりが静まった深夜にフランは目を覚ましてしまった。

外はひっそりとしていて、
なんだか星や月がぼんやりとくらいにしか窓からはみえない。

もう一度睡眠をとろうとしてもすっかりと冴えてしまった頭は
眠気をどんどんと引かせるためどうにもすることができず、

部屋の明かりをつけこのまま朝まで待つか、というのもする勇気がないので
仕方なくベッドから動かずにそのままもぐったままでいた。

体をよじり寝返りをうったら頭の先に何かが当たる感覚がした。
その正体は、
カエルの被り物。
合うはずのないカエルの目と自分の目が
一瞬あった様な気がしたのは気のせいだろう。

フランは嫌がっているが、コレを自分に被せたあのわがままなベルフェゴールはコレを脱ごうとするといつも強く拒む。

「そういえば、マーモンさん…?の何でしたっけ…あーファンタズマだったか」

あまりこのカエルの被り物についての説明を聞き入れていないので曖昧になる。
というかカエルなんて被りたくて被っているワケではないからそんなのどうでもいいが。


ふと、なぜ「自分」が暗殺部隊にいるのか、
と考えてみればそれは「前任」の「代わり」の後任としている。
これはヴァリアーの全員が皆、知っていること。

ココで考えるのをやめるべきだ
とフランはそのときの自分に今になって後悔ににた気持ちを伝えたかった。
それ以上余計なことなど考えるな、と。



そして、
なぜベルフェゴールがフランにカエルの被り物を被せたのか

と考えれば「マーモン」の「代わり」というなんとも言葉にできない結論に最終的に至る。
間違いない。

それも、ベルフェゴールは隠したつもりかもしれないが明らかに自分を介して自分ではない誰かをみている。
しかも、自分を通してみている相手に思いを寄せて
いる気さえするのだ。
とぼんやり考えたところで以前、こんなことをしたなと頭の中にある記憶が浮かんできた。

それは、試しに一度被らずに彼の前に姿を現したら彼からは
カエルはどうした?と一言を言われただけだったのことだ。
が、どうも隠し切れずに溢れる殺気といっていいほどの怒りがこちらにピリピリと伝わってきた。
 
その後もすこしだけの間カエルを被るのをやめたとたん、
彼から話掛けられるどころか相手にすらされなくなったことがある。

それを思い出して確信をした。
確実に「誰か」の代わりではない
自分など眼中にすら入っていないことに。

誰かなんてこの被り物の
モチーフとなったカエルを連れていた人しかいないだろう
それくらい簡単だ。

ぽっかりと空いてしまったらしいその人の席に
合うはずのないパズルのピースを子供によって力任せにぎゅうぎゅう
と無理やりに押し込まれたのではなく
本来のピースを模るようにしてそのピース部分に…席に自分は「代用」として置かれていたらしい。

そう、間に合わせの代用品。

だから、その席にいた人を忘れないようにと新しく入ってきてしまった自分を受け入れず、
自分のイヤだという意見を無視して
コレを自分に被せたのかと、代用をやめたら相手にすらしないのかと
問いただしたくて堪らなくなる。


氷水を頭の真上から掛けられ冷えたように冷静な思考をもって
ひとり静かに考えていたら何故だか目の奥や心がズキン、と痛んだ。


「…代用とかバカみたいなこと考えるミーが一番バカですね」

一応、気を落ち着かせるように独り言を呟いてみる。
口調も声の調子もいつも通りなはずだと思って声に出したのにのに
頬にふと冷たく流れた一筋の涙が理解できない。

「え…なんで、ミー泣い、て…」

ぽつりと一言呟かれたその言葉は何処にも行くあてがなくひっそり暗闇に吸い込まれ虚しく消える。
頬を伝う涙はいつの間にか目から溢れるくらいに止まることを知れずにながれていた。



涙が流れた原因でもある気持ちのひとつに
彼に気持ちを寄せている自分が小さくだが存在していた。
それに気づいてその感情の言葉に辿りついてしまった時には
張り裂けそうな程に胸がきゅうと締め付けられ
あまりの苦しさにポーカーフェイスを保つことさえままらなく、
子供のようにただ声を上げて泣き崩れていた。


「…ミー、っはフラン···なのに」

被り物を視界に入れたくなくて腕をソレに向けてベッドから落とせば、無造作にトンと軽い音をたてベッド近くのどこかに落ちた。

このカエルを被らなければ、ベルフェゴールに問いただすことさえ叶わない。
ただ、言ってしまった後はどうなるかなんてわからないし考えたくもない。


「···死ね、堕王子っ」

と震える声で小さく呟く。
この一言ですら「フランのまま」では聞き耳さえ立てやしなかったのだ。

このままもう何も考えたくなくて
ぐっ、と涙でぐしゃぐしゃになった顔をシーツに埋めた。
そうしてしまえば、このまま眠れるのではないかとフランは思った。

そしてそのまま朝になっても
目覚めないでいたいと暗闇に溶ける思いで願った。
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