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□眠るあなたとわたし
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「センパイー、…?あれ、もしかして寝てますー?」

四人掛けのソファに堂々と態度よろしく横になっているのは

紛れもない堕王子ことベルセンパイの姿。

こちらから声を掛けても

返事がないということはおそらく寝ているのだろうということから

その予想は確信へと変わった。

(それにしても、センパイがこんなところで寝てるのは珍しいですねー)

ベルセンパイの元に音を立てずに駆け寄り

動かないのを良いことにセンパイを覗き込む。


(黙っていればカッコイイ王子、なんですけどね…)

と普段なら絶対センパイに言わない、

言えるはずないことをふと考える。


(髪の毛、触ってみたいなーなんて)

ベルセンパイのきらきらと控えめに輝く

蜂蜜色の髪の毛に思わず心が惹かれ

触りたい、という欲求が頭の中を支配する。


(センパイ起きないでくださいね…)

とおそる、おそる自分の右手を

ベルの前髪へと伸ばしてゆく。


ふわり、と指先に絡まるように伝わる髪の毛が

何故だか自分の心を和らげる。

それは、魔法にかかったかのように

とても落ち着くものだが

不思議な感覚、と表現するしか

今の自分にはできない。

安心感、を得ている、

とそれに近いものを感じていると決める自分がいれば、

そうではないと決める自分がいる。

なんとも、もどかしい気持ちが頭を揺さぶる。

その気持ちは指先にも伝わっていたようで

微かに触れた自分の手が動いた。


その時、意図したわけではないが

触れていた髪の毛の隙間から見えるセンパイの閉じられた目の瞼がみえた。


(あ、やっぱ、センパイにもちゃんと目はありましたか)


いつもその邪魔そうな前髪でみえなかったそれが今なら見れる、

かもしれないという考えに陥った。

そこから行動に起こしたのはほんの一瞬のこと。

すぐさま前髪をどかせば、センパイの閉じた目が現れる。


ここまでしてベルセンパイが気づかないのを我ながら良くやったと一人で喜ぶ。



しかし、いつもなら何かしらのアクションを起こしてくるはずのセンパイが

静かなのが少し胸に引っかかる。

寝ているだけ、と自分に言い聞かせてもモヤモヤとする気持ちは

消えるどこか時間とともに比例して増えてゆく。


「寝ているだけ、ですよね…?」

あまりの不安からいつの間にか声にまで出してしまっていたらしい。

どうか反応して欲しい、

それでも閉じた瞼は開くこともピクリと動くこともしない。

いよいよピークに達した気持ちが体に伝わり、

手で触れていた前髪を離して、

行き場を失った手を今度はセンパイの白い首元に沿うようにして軽く触れる。

雪のようなその白さがいつもなら気にしないはずなのに、とても不気味に思えてくる。

不安ばかりが独占した頭が考えることは決まってソレに連鎖した感情ばかり。

だから、とくとくと首筋に規則よく流れているモノを確認した自分はどれだけ安堵しただろうか。


「良かった…」

その一言はセンパイには聞かれないように小さく呟く。

どうか聞かないで欲しいと思いながら。


起きてと願い、起きないでと願う矛盾した行動をとる自分は身勝手だ…と心の中で笑う。



「センパーイ」

触れていた片手を彼の首元からするりと抜く。

ついでにセンパイ宛に声を掛けたがもちろん返事などはない。

そのまま、眠るベルセンパイとの距離を縮めるが、

「…やっぱやめた。反応のないベルセンパイとかただの王子じゃないですかー」

堕がつけられないですーと

あくまで彼を起こさない程度の小声で付け足して近づけた顔を離す。


「唇にキスしてやろーかと思いましたがー、寝てるセンパイにするとかどこのロマンチストですか」

やめた、やめた自分にと唱える。


「…どーせこれくらいしかできないですよ」

と文句を付けてベルセンパイの髪の毛に口づける。


「あー、もう恥ずかしぃ…」

蚊が鳴くような今にも消えそうな声を残してその場から立ち去る。

本当はセンパイの唇にしなかったのではなくて…

誰も見ていないはずなのに恥ずかしくてできなかったからだ。


思いを寄せる相手、だからこそ。

ソレこそ身勝手なのだろうか…。




「え。ちょっと待って何アイツ、可愛すぎ…」

フランのいなくなった部屋で声を発する人物といえば、ベルしかいない。

(王子マジ嬉しい)


 
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