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□ちゃんと好き
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今日は久しぶりに任務がなく、今日までの報告書を難なくと涼しい顔で片付け

スクアーロへと提出を終えたフランは

自室のソファ端に座って本を読んでいた。

フランが読んでいる本はどのページをみても

端から端までに文字の羅列が敷き詰められていて、

文字が今にもあふれ出しそうなほどびっしりと書かれている。



捲れば捲るほど、本に書かれている内容は濃くなっていく。

読み終えたページが次々に重なり、ちょうど半分にさしかかろうとしていた頃には

文字という文字が視界を半ば無理やりといっていいほど占めていた。


次のページを捲ろうと紙に指をのせたとき、

ガチャ、と自室の扉が開く音が聞こえた。

ノックをせずこの部屋に入ってくる人物といえば、


「うわ…カエル、また本なんか読んでんのかよ」

ベルフェゴールしかいない。

「ちょっとセンパイー、勝手にミーの部屋に入ってこないでくださーい」

「それにノックぐらいはしてくださいー」

堕王子ーと付け足せば、ベルからナイフが一本、二本、と

フラン目掛けてすっ飛んで、カエルの被り物に

ヒュ、と見事に突き刺さった。

痛いですー、と感情の「か」の字も含まれてそうにない声色で言いつつ

文字の羅列に目を通すスピードはそのままに維持する。

「堕王子言うなつってんだろーが」

「あー、はいはいすみませーん。いつもの癖なんでやっぱ王子(仮)のほうがいいですかー?」

「かっこも仮もつけんなっ」

といいベルがこちらに向かってきた。

「ししっ、フランの隣」

ソファに座っているフランにぴったりと隙間なく、くっつくようにしてベルが座る。

「…そんなくっつかないでもらえますー?暑苦しいんですけど」

「いーじゃん、別に。フランの部屋今クーラー入れるんだし」
 
「そーいう問題じゃないんですが」

「あ?何、もしかして照れ隠し?」


そんな隣に座られては、読書をするにも気が散ってしょうがない。

ひとまず、心の中を悟られぬ程度に文字を目で追いつつ、

適当にベルをあしらうことにフランは決めた。

「ぅわー、ないですーセンパイのいいように持っていかないでください…ってちょっと、センパイッ…!」

「ししっ、どしたフラン?」

本に夢中で気がそれていたのが原因だったのだろう

いつのまにか本が横から入ってきたベルの手によって一瞬にして奪われてしまった。

「その本、返してもらえますー?」

不本意だがベルと向き合う形になる。

「しししっ、やーだね」

「…ミーの貴重な休暇をとらないでほしいんですケドー」

「ってるオマエ、いつも決まってココに引きこもってんじゃン」

「これがミーの休みのとり方なんですー、わかったら返せー堕王子ー」

ベルの片手にある本をとろうと腕を伸ばすが、

どうにもこちらのフランの動きが手にとってわかるとでもいいたい位に

ししし、と笑いながら挑発され、かわされてしまい失敗に終わった。


「っ…、センパイ」

遠まわしにベルにからかわれ、フランの声に苛立ちの声色が少しだけ加わった。


それを感じとったのだろう、ベルもそれ以上は

行動を起こさなかった。

「わかったつーの…ただし―」

「…え?」

目の前には鮮やかなほどの蜂蜜色のふんわりとした、ベルの前髪がフランの目にいっぱいに映る。

ベルの顔がすぐ近くにあるということ。

「フランからキスしてくれたら、な」

ししっ、とベルの特徴的な笑い声が聞こえたのと同時に自分の頬が紅く熱く熱を持ったのは
ほぼ一緒。

「は、はぁ?…なに、言っちゃてんですか」

キス、というだけで赤くなってしまう自分をみてさぞかし楽しそうに笑うベルに

ギラリと睨みつける。

「いつもオレからじゃン、フランは王子のこと好きだったらキスくらいできるんじゃね?」

「…好きだけじゃだめなんデスカー」

「好きじゃねーよキスだっつってんの」

これは、困った。

実行しないとベルは本を返してくれなさそうだ。

「ッ…わかりましたー、一回、だけ…ですからね」

とにかく早く終わらせたかったフランは

ベルとの間の距離を一気に縮めると彼の唇に

触れるだけの軽いキスをした。

たった、一連の動作が自分にとっては、長く感じたのは

なにもかも目の前にいるベルのせいなのだと、今のフランには考るしかなかった。

「こっ…これで、いーでしょー…?」

「だからっ、その、早く本返し…」

「もっかい」

「…え」

「あ?わかんなかった?もう一回」

「は、…なんでっ、…というかもう絶対しませんー」

「…わーたっよ、まぁ、王子は嬉しいからイイけどね」

ほらよ、とベルの手から本を受け取れば

ベルの指先などが触れていたところからフランの指先へと熱が伝わるような感覚、がした。

「なに?そんなに赤くなっちゃって…ししし、かーわい」


「っこの、堕王子!」




ベルが好きだから、キスがなかなかできない、
ただそれだけの事を隣にいる彼は果たして気が付いているのか…。

フランは絶対に気づいてほしくないとバクバク、と鳴り響き続ける
心のなかで願うしかなかった。




(ミーからはあんまりキスできないですー)



センパイからのほうが好きだ、とは言ってもやらないが。


 
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