小説
□Who is he?
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「ねえ、トランクスくんのお父さんってカッコいいのね。
偶然、あなたの家の近くで見かけたの。
あなたにそっくりだったから、すぐに分かったわ。
実は彼、あたしの理想にぴったりなの。」
とまあ、その息子にしてみたら誇らしいような妬ましいような発言を、下校途中のバスの中、俺の意中の彼女は嬉々としてするのであった。
彼女の名はディジー。
俺と同じ教室に在席している中学1年の女の子だ。
ディジーはほっそりとしていて、ほどほどに背が低くて、色白で、目力があって、鼻が小さくてだけど芯が通っている。
胸まである漆黒の髪はクセのない艶やかなストレートで、すれ違う人々を振り返らせる魔力を持っている。
要約すると、ディジーはえらいベッピンさんなのだ。
それにダメ押しするかのように、性格が丸く、誰に対しても自然な笑顔で振る舞うことのできる彼女は、異性からも、そして同性からも好かれていた。
俺もまた、彼女の美貌・性格に魅かれた1人であり、いつしか教室のマドンナの虜となっていた。少なくとも、2か月くらい前から彼女を意識するようになったと記憶している。
――確かに父さんはかっこいいよ?だけど、いざ付き合うとしたら、人格に難ありまくりで、それこそ前途多難な恋になると思うな。それに、父さんにはもう母さんっていう人がいるんだし。……あ、でも理想だって言ってるだけか。それにしたって、俺の前でできればそういうこと言わないでほしいんだけど。俺に話があるってこのことだったわけ?
好きな女の子が、自分ではなく、自分の父親に好意を抱いているのは、男として父親に負けているようでおもしろくない。
それに、彼女が今日の授業終わりに「話があるの、一緒に帰らない?」だなんて甘い(?)言葉を囁くものだから、てっきり告白される思っていた俺は、そういえば彼女とまともに喋った覚えなんて一度もないということを、バスの最後部座席に腰を下ろし彼女の止まらぬおしゃべりを聞きながら苦苦しく思い出していた。
「特にあの目がたまんないわ。
一見目付きが悪いだけのように見えて、実はどんな獲物も逃さない狡猾なイーグルアイを彼は持ってる。
……そういえば、あなたもそうね。」
――そりゃどうも。でも、その取って付けたような物言い、何とかならない?
片方の眉がヒクヒクと痙攣する。
このままディジーの話を聴いていると、自分の彼女に対する思いが崩壊してしまいそうだった。
「鍛え抜かれた肉体は弛まぬ鍛錬の証。いかにも一途って感じじゃない?
……あ、あなたもそうだけど。」
――そうだよ一途だよ、一途過ぎて皆から戦闘バカって呼ばれてるよ。それより、またさりげなく俺を傷つけてるよディジーちゃん。
次は両方の眉が痙攣を起こす。
――やばい、ちょっと気分転換に窓の外でも見るかな……。
しかし、車窓の外、視線の先に見えたのはラブラブに手を繋ぎ歩道を闊歩するカップル。夕日に照らされて、2人の影は大きく縦に延びていた。
――くそ〜、今一番見たくないこんな場面に出くわすとは!仕切り直し、仕切り直し。落ち着け自分。
再び彼女に視線を向ける。彼女のぱっちりとした目はキラキラと輝いている。
信号で停止していたバスが走り出し、少し後ろに身体が倒れる。
「それに特筆すべきはあの肌のハリ。トランクスくん、いつだったか、お父さんの年齢言ってたじゃない?確か、今、四十後半だとか。
あれ、何も知らない人が見たら、絶対二十歳だと判断を下すわ。」
――だって戦闘民族だもん、若い期間が長くて当然だよ。ていうかさ、ディジーちゃんって、おもしろい言葉回しするんだね。
ついには半ば呆れたような顔をしてしまう。
「あと、特徴的なのは髪型よねー、なんといっても、」
――なんといってもあのM字ハゲがいいって?
彼女の言葉の先を予見してみる。うん、きっとこう言うばず。多少、装飾がされると思うけど。