小説

□望む未来
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妙なほどまるで現実味がなかった。
眼前に広がる光景は、安っぽいドラマを連想させた。

目の前で愛する者が殺され、悲嘆に暮れる。

以前、テレビでそんな一場面を目にした際、少なからずあたしは涙を浮かべた。

遺された人はなんて不幸なんだろう、とそう思わずにはいられなかった。

これから何を糧に生きていけばいい?
この絶望感とどう向き合えばいい?

実際に起こった出来事でないにも関わらず、その遺された人を演じる役者と心を共有している気にさせられた。

そして知る。

ドラマを見て浮かべた感情が、あまりにも他人事だったという事実。

自分は恵まれた生活を送っていたという事実。

ドラマを見る自分に、そんな不幸は訪れはしないと楽観していたのだ。あるいは、もし目の前で愛する者が殺されたら、とその先を想像することから逃げていたのかもしれない。

身を持って経験することは大切だというが、あまりにも酷だった。

実際に、そんなドラマが初めて自身に降りかかってきた時、何も考えられなかった。

泣き叫ぶことで無意識に自分の精神を守っていた。

そのうち、いくら泣いても仕方がないことに気付いて、ふたたび世界に目を向けた。自分には守らなければいけない人がいると奮い立たせた。

二度目もまた然り。それでも自分には守り育てなければいけない人がいると再認識した。

そうして何度目かわからぬ悲劇はたった今、起こった。

守り育て、人造人間が引き起こした悲劇に幕を下ろした息子は、過去の懐かしき仲間たちにその喜ばしい事実を報告しようとタイムマシンに乗り込もうとしていたのだ。

それなのに。

息子の笑顔は血の飛沫に変わった。

絶叫がどこかで聞こえた気がした。それは自分のものだと気付くのに数秒を要した。

目の前の緑の悪魔はそんな自分の様子をせせら笑い、楽しんでいるようだった。すぐに私を殺そうとはしない。

殺される、という未来に不思議と恐怖は無かった。

もっとも、感じる余裕すら無かったのかもしれない。

これが運命なのか。渇れる声で叫びながら、悟っていた。

悔しい、けれど殺されるなら今だと思った。

失って得るものは、もう充分。もう、欲しくない。運命に立ち向かうことから逃げても、きっと誰も責めないだろう。

緑の怪物が迫ってくる。どうやら自分の様子を観察するのに飽きたらしい。

さあこの世界に別れを告げよう。

息子や愛する人たちに会いに行こう。

そこには、一人、いない人物がいるけれど、と不意に笑みがこぼれた。と同時に、体内に僅かに残った涙も。

どうか、と願わずにはいられない。

どうか平和な未来が訪れて、笑う自分がいますように。

《END》





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