小説

□夢のような
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穏やかに自分を温めていた日の光が、突然、遮られてしまったような気がした。


それからやや間があって、上からぶっきらぼうな低い声が降ってくる。


「ブルマ。


おい、ブルマ!」


(…誰よ、あたしが気持ちよく眠ってるのに、それを妨げるのは。)


それによって、目を閉じてはいるが、完全に意識を取り戻してしまった。


(声の感じからして、ベジータかしら。


こんな朝から何よ。


もしかして、重力室でも壊したの?


それなら、後にしてほしいわ。


昨日も一昨日も研究開発で忙しくて、一睡もしてなかったのよ?


たまには、のんびりお昼まで寝かせなさいよ。)


そう考え、再び意識を手放すことにする。


「ブルマ!」


「おい、聞こえてるのか!?


いい加減、目を醒ましたらどうだ?」


それでも、自分の名を呼ぶ声は鳴り止まなくて。


(んもう、これじゃ眠れないわ!)


頭にきたブルマは、重い体を起こし。


「もう、うるさいわね!!」


と、怒鳴り声をあげる。


そして、寝ぼけ眼で焦点定まらぬ目を強引に修正し、はた迷惑な声の主のほうを見やった。


すると。


「ふえ?」


そこには、信じられない光景が待ち受けていて。


思わず、目を白黒させてしまう。


「ようやくお目醒めか?」


そんな悪態を吐くのは、確かにベジータだ、それは間違いない。


けど、なんか格好が、その、何というか…。


(白い、タキシード、よね?)


デザインどうのこうのではなく、動きにくい服を一切好まない、あのベジータがなせこんな格好をするのか理解に苦しんだ。


「あんた、どうしたの?


コスプレにでも目覚めた?」


適当な理由が思い浮かばず、わけのわからぬ質問をぶつける。


「何を寝惚けてやがる。


今日は、俺とお前の結婚式だろう?」


ベジータは軽く笑い、ものわからぬ幼子を諭すように、ブルマに告げる。


相変わらす厳しい口調だけれど、そこから冷たい感じは一切感じられなくて。


そして、改めて愛する我が夫をまじまじと見つめ、


(けっこう、タキシード、似合うじゃない。)


ふとそんなことを思う。


結婚式。


それが本当だったら、すごく嬉しいけれど。


なんだか、実感が湧かなくて。


(あ、あんたのほうが寝惚けてるんじゃないの?)


今まで何度、結婚式を挙げようと駄々をこねても、知らんの一点張りだったあいつが、突然結婚式だなんて。


どういう風の吹き回し?


というか、現実?


「あんた。


孫くんみたいに、結婚を食べ物だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」


「ふん、まだ目が醒めきっていないようだな。」


ベジータはその右手で、そっとブルマの頬に触れ。


(何、何?


おはようのチューとか。)


自分より僅かに体温の高い、その掌の温かさに気持ち良さを覚え、目をとろんとさせてしまう。


けれど。


ぎぅ!


「いっったあーい!!」


我が身を襲ったのは唇の感触ではなく、鮮烈な痛みで。


「何、つねってくれてるのよ!!


痕が残ったら、あたしの美貌が台無しじゃない!」


思わずキーキー喚いてしまう。


そんな様子をベジータはおもしろそうに眺め。


「これで目が醒めただろう?


ラッキーだったな。」


あれ?


痛いのに、夢が醒めない。


じゃあこれは現実?


「え、本当に結婚式、挙げるの?」


胸の高揚を押さえつつ、念を押して問う。


「俺が信じられんのか?」


逆にこちらが問い返されて。



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