ナズナ

□扉の奥で
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スネイプに促され、真っ黒なソファーに座る朱雫。
少し待ってろと口早に告げられ、スネイプは奥の部屋へと消えていく。杖を振って、テーブルに紅茶を出すのも忘れずに。
なんの用だろうかと朱雫が考える間もなく、スネイプは奥の部屋から黒く細長い箱を手に戻ってきた。
見覚えのある形状の箱に朱雫は訊ねる。

「もしかして頼んだ杖ですか?」

「一ヶ月足らずで杖が出来ると思っておいでで?ましてや初めての材料ばかりな上に希少な魔法動物の尾羽ときた。本人も時間がかかると言っていただろう。もっとも、その本人は楽しんでおられるようだがね」

朱雫自身もそんな一ヶ月で杖が出来るとは思っていないが、そもそも杖がどのくらいの期間で出来上がるかなど知らないのだから仕方ないじゃないか、と思う。

「新学期に間に合わない代わりと言ってはなんだが、とオリバンダーが代わりの杖を寄越してきた」

「えっ、そんな!」

さすがにそこまでされると思っていなかった朱雫は差し出された箱を受け取るのを躊躇する。
一向に受け取ろうとしない朱雫に、スネイプはテーブルの上に箱と封筒も置いた。
読めと無言の圧力をかけられて、朱雫はおそるおそる封筒を切る。
手紙を読み進めていくうちに、普段表情の乏しい朱雫の顔が、目に見えて狼狽えていく。その様子に、スネイプも心ばかし不安を覚える。

ゆっくりとした動作で手紙を下ろした朱雫に、スネイプが視線を投げかける。触りを話せ、ということらしい。

「この杖……」
─くれるらしいです

空気の抜けるような声で告げた朱雫に、スネイプも刮目する。

「なんだと?」

予想外すぎたのか、スネイプは前のめりになって半ば朱雫からひったくる様にして手紙を取った。
スネイプも朱雫同様に、読み進めていくうちに段々と顔が険しくなっていく。眉間のシワが普段の三割...いや四割増しだ。

手紙の内容は、朱雫から貰った材料で杖を作るのはいいが、何しろ初めて使用する芯ゆえに、貴重な材料を無駄にするわけにもいかず、行き詰まったので、試しに似たような材料を使って杖を作ってみたらしい。
そしたら、案外いいものが出来上がったそうで。おかげで朱雫の杖も、他の杖の新しいアイディアも出来そうということで、試作で作った杖は朱雫に譲る、という旨だった。そもそも試作した杖を人様に寄越すというのはどういうことなのだろうか。

「ど、どうしましょう…」

「どうしだこうしたもあるか!杖を三本所持なんて、聞いたこともない」

「で、ですよね…」

朱雫だってまさか三本も杖を持つなんて思ってもなかったのだ。
それに言ってしまえば、杖などなくても朱雫に魔法の類は使えてしまう。
しかし、それだと目立ってしまうので杖を、と思ったのに。予想外すぎて困ってしまった。




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