ナズナ

□入学式
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帽子がそう叫ぶとスリザリンのテーブルから拍手が送られる。ほかの寮とは違って、ぱらぱらとした拍手だったが、一応歓迎はされるようで。
そして同時に後ろの教師席が戸惑ったような小さなざわめきが起きた。
ここ夏休み間─といっても一ヶ月だけだったが─朱雫は、スネイプと買い物へ行った次の日から、一日中部屋に篭もり本を読み漁った。
母から持たされた荷物の中にも本があり、とにかく入学前にできるだけ知識を詰め込み、部屋の本が読み終わると、各教授の部屋に押しかけ専門書を借り、再び読み漁っていたのだ。
更には、ホグワーツにいるのだからと魔法をやりたい放題やらせてもらった。
既に一年生で習うべきことは習得したし、出来る科目はもう他の学年まで進めてある。

特にマクゴナガルやフリットウィリックの所へはそれはもう我が寮に我が寮にと意気込んでいたから、それはそれはショックだったらしい。

「ありがとう、素敵な帽子さん」

帽子に礼を述べつつ、チラリと視界の端にハリーとロンのガッカリしたような顔が見えた。
自分は彼らのようなまっさらな心で生きてきたわけじゃないのだ。真っ向勝負で生きていく勇気なんて、持ち合わせていないのだから。
そうして教師陣が困惑する中、朱雫は知らん顔してスリザリンのテーブルへと向かった。

全員の組分けが終わった中、最後に残った朱雫が座る場所は必然的に前になる。
仕方なく空いている前の席に座る。隣に座る男の子は、右側だけ少し長めのアシンメトリーな黒髪の男の子。こんな子、いただろうか。原作では主要キャラじゃなかったのかもしれない。
そう判断した朱雫に、向こうが顔を少しだけ傾けて声をかけてきた。

「…東洋人か?」

「えぇ、日本人よ」

「日本の魔法界は、その…どんな感じなんだ」

あまり抑揚のない、淡々とした声。
元々寡黙な子なのかもしれない。自分が東洋人じゃなかったら、おそらく気にもとめなかっただろうな。現に、あまりこちらを向くことなく話しかけてきたのだ。

「こっちとはかなり違う。あまり純血だの非魔法族だのは問題にならないから」

「そうなのか?」

朱雫の答えにかなり驚いたように、初めて朱雫と目を合わせた。
透き通っているのに、どこか濁った、でも吸い込まれそうな真っ黒い瞳だった。

「えぇ、日本の魔法界は実力主義に重きを置いてるみたい。非魔法族生まれでも何でも、実力さえあれば周りは黙るから。まぁそれでも差別はあるみたいだけど…。純血だの非魔法族だの、子どもの喧嘩よりくだらないわ」

「…変わってるな」

「あなたからしたらそうかもしれないけど、私からしたらこっちの方が変わってるのよ」

純粋に興味として聞いてきた彼は、そうポツリと感想を漏らした。

「…セオドール・ノットだ」

ふい、と顔を正面に戻す際に、聞き漏らしてもおかしくないような音量で、そう告げられた。
なるほど、彼があのセオドール・ノットか。ひょろりと筋張ったと表記されたあの、セオドール・ノット。父親が死喰い人で、母親は故人。マルフォイたちとはあまり絡みのないキャラだった気がする。そして、秀才であるとも。

「シュナ・レイキ。よろしく、ノットくん」

「ああ」

コクリと小さく頷いたセオドールに、朱雫は満足げに微笑んだ。




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※セオドール・ノットには詳しい記述がないため、管理人のイメージとしては刀○乱◯の大○利○羅をイメージしました。
※また日本の魔法界については全て管理人の捏造です。
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