ナズナ

□ダイアゴン横丁
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お店の中には、藤色ずくめの服を着た愛想のよさそうな、ずんぐりした魔女だった。

「いらっしゃい、ホグワーツの制服でいいかしら?」

「はい、お願いします」

朱雫の姿を見るやいなや、声をかけてきた。

「あと、普段着もいくつかほしいんですけど…」

「えぇ、わかりました」

マダム・マルキンは朱雫を店の奥の踏台に立たせ、長いローブを頭から着せて、丈をピンで留めはじめた。

「珍しいわね、東洋人がホグワーツに通うなんて」

「…ダンブルドア先生が後見人になったので」

「まぁ…!そうだったのね…」

マダム・マルキンは眉を下げて微笑んで、それから口を開かなかった。
店内に響くのは布の擦れる音だけだった。



「終わりましたよ。あなたぐらいの子ならあの辺の服がちょうどいいんじゃないかしら」

「ありがとうこざいます。見てみます」

朱雫は踏台から降りて、普段着を見始めた。
気に入った服を何枚か買い揃え、制服と共にホグワーツへと送ってもらった。

店を出たあとは、言われた通り羊皮紙と羽根ペンを買うと、早々に「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店」へと向かう。
店内は、棚が天井までありぎっしりと本が並べられていた。革製本、小さな本に大きな本、奇妙な本だったり、何も書かれてない真っ白な本だったりと、たくさんの本で溢れていた。
必要な教科書を一通り手に取ると、本棚を見て回った。

「毒薬─世界の毒の魔法薬学─」
「マグル薬魔法薬─マグル薬を魔法薬に応用─」
「薬草、魔法薬応用」
「人ならざるヒト」
「総集編呪文集」
「新・変身術応用」
「闇の魔術に対する防衛術・応用」

何冊か面白い本を見つけ、手に取っていく。しかし、如何せんこの書店の規模を考えると、どれもほしくなってくる。

「あの、すみません。あの棚からここの棚まで──」

「……何をしている」

「スネイプさん、もう用事は終わったのですか?」

「私は何をしていると聞いているのだ」

店員に声をかけたところ、いつの間にか背後にいたスネイプに問われる。

「どうせなら、専門書の類いは全て買ってしまおうかと…」

朱雫が指した、あの棚からココの棚までは全て薬草、魔法薬学と闇の魔術、防衛術、変身術の専門書だった。
スネイプは顔を顰めた。元々あった眉間のシワが濃くなる上に、新たなシワが刻まれる。

「…一年生のお前には必要ない。そもそも買ったところでどうやって持って帰るつもりだ?」

「読むだけでも勉強になりますよ。拡張魔法がカバンにかかっているみたいなので、入ると思います」

「魔法薬に興味があるようだが…」

「はい、向こうで母や父に教わって薬草薬をやったことがあるので」

そう言って朱雫は、こちらの様子を伺ってる店員に視線を戻すと「金額は?」と訊ねた。

「は、はい。少々お待ちください」

「待て、取り消しだ」

店員が金額を確認しようとすると、スネイプが止めに入る。
困惑した顔をしている店員に、本をあれこれと指し、さっさと金を払うと買った本を朱雫に渡す。
積み上げられた十数冊の本がずっしりと腕にのしかかる。

「基本から応用まで載っている、無駄に買うより安上がりだ」

「あ、ありがとうこざいます。あの、お金…」

「構わん、レイキの娘への入学祝いだ」

スネイプは朱雫とは目を合わせずにそう言うと、書店から出て行く。照れ隠しなのだろうが、それに朱雫は気付かない。カバンに本を詰め込むようにして入れながら、スネイプのあとを追う。

「……母のこと覚えていたんですか?」

「…顔見知り程度だ」

「顔見知り程度の娘に入学祝いを贈るのは普通だとは思えませんけど、イギリスでは当たり前なんですか?」

歩きながら、朱雫は隣のスネイプを見上げて言う。

「……同窓だ。母親から聞いてないのか」

「スネイプさんの口から聞くまでは確信が持てませんでした。母と仲が良かったそうですですね」

「…余計なことはきいてないな?」

「魔法薬に長けていたと伺っております」

「あいつの娘なら魔法薬に興味があるのもうなずける」

幾分か歩調を緩めながら、スネイプは穏やかな声でそう言った。




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