ナズナ
□ダイアゴン横丁
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─ポンッ
今度は空気の弾ける音と共に、スネイプと朱雫が姿を現した。
「っ......」
ぐらりとフラつく身体をスネイプが支える。
「すみま、せん...」
朱雫はスネイプに謝罪を述べ体勢を整えようとするが、初の姿現しは少々刺激が強かったようで、なかなか体勢を直せない。スネイプに寄りかかって、しがみついている格好だ。スネイプは謝罪には何も答えず、黙って朱雫を支えて落ち着くのを待っている。
深呼吸をして気持ちを落ち着けていると、自分の体勢に羞恥を覚えてくる。離れようと身をよじると、ふんわりと薬草の匂いが鼻を掠めた。言わずもがな、スネイプだ。
「......どうかしたのかね」
「い、いえ......ありがとうございました...」
朱雫は、そろりとスネイプから離れる。その時に再び、スネイプの匂いが鼻を掠める。柔らかい、匂い。決して万人受けする匂いではないが、薬草とスネイプ自身の匂いが優しい。
スネイプはパッと朱雫から離れ、クルリと踵を返す。
「落ち着いたのなら、行くぞ」
そう言って歩き出すスネイプに、朱雫は離れないように、スネイプの後ろをついていく。どうやら、ダイアゴン横丁の外れの店と店の間の路地裏にで、人が少ない場所に姿現しをしたようだった。しかし、表に出ると人がごった返していた。ホグワーツの制服を身にまとった人がチラホラといて、新学期が近いことを知らせる。
「あ、の...スネイプさん......!新学期って......っすいま、せん...!」
見失わないようにスネイプのあとを必死について行く朱雫だか、如何せん人が多い。さっきから何度もぶつかっている。一方スネイプはというと、なんの不自由もなくスルスルと歩いている。
「っあ…!」
向かい側から来た集団に押され、立ち止まってしまう。気付いたときには、スネイプの姿は見えず、人の壁があるだけだ。はぐれてしまった。困った顔で、辺りを見回す朱雫に気を使ったのか、通りかかった年配の紳士が声を掛けてきた。
「小さなお嬢さん、何かお困りで?」
「ごめんなさい、グリンゴッツへ行くにはどちらへ行けばいいですか?」
「グリンゴッツかい?グリンゴッツなら、この道を真っ直ぐ行くとあるよ。お嬢さんは小さい上に人が多いから見えないだろうけど、確かだよ」
年配の紳士はにこやかに朱雫に教える。
「ありがとうございます、ミスター」
「なに、お安い御用さ」
年配の紳士は帽子を少し上げて挨拶をすると、颯爽と去って行った。
あれぞ、英国紳士なるものか...。と、どうでもいいことをぼんやりと考えながら、紳士が教えてくれた方向へと足を進める朱雫。
「っレイキ…」
前方から黒い人影。
「…スネイプさん、よかった。ちょうどそちらへ行こうとしていた所です」
「勝手にいなくなられては困るのはそちらの方なのだがね」
「すいません、人が多くてなかなか進めなくて…」
焦りの色を浮かべたスネイプは、走って朱雫を探したのだろうか、うっすらと頬が蒸気している。
「次は気を付けますね」
「…ならいい」
スネイプが再び何かを言おうとする前に、朱雫がそう言うと口を噤んだ。
そして、先ほど来た道へと向きを変えた。今度こそ、離れないように朱雫はスネイプにぴったりとくっついて歩き出すが、心なしか先程とは歩くスピードがゆっくりだ。スネイプが朱雫に合わせているのだろう。
それに加え、驚くほど歩きやすい。人とぶつからないのだ。恐らく、これもまたスネイプが気遣っているのだろう。スネイプの優しさに、朱雫は顔を綻ばせた。
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