ナズナ
□迎える朝
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目を開けると、見慣れない天井が目に入った。どこだろうと考える間もなく、昨日の出来事が頭をよぎった。
─今宵はもう休むといい、君のこれからについては明日話すとしようかの─
─今はゆっくりお休み─
そう言って朱雫を空いている部屋─あろうことか客間にしてしまった─に通したのだ。
─コンコンコン
落ち着いたノック音が、朱雫が起きたのを見計らったように鳴り響いた。手櫛で髪を整えると、朱雫はゆっくりとした動作で扉を開けた。
「おはよう、シュナ。よく眠れたかの?」
にこやかに笑う訪問者は言わずもがな、ダンブルドアである。
「...おはよう、ございます」
「その様子じゃとよく眠れたようじゃの」
満足そうに、ふぉっふぉっふぉっと笑うダンブルドアは朝から元気だ。
「今日は君のこれからについて話そうと思うてな、朝食でも食べながらどうかね?」
「...しばしお待ちを」
朱雫はダンブルドアにそう告げると扉を閉めて、豪華な作りのバスルームへと赴く。
急いで顔を洗って歯を磨いて、髪を梳かす。そしてバスルームから出ると大きなクローゼットを開けて、─ダンブルドアが用意してくれたのか─無難な黒いブラウスと膝丈のグレーのギャザースカートに着替える。
「お待たせしました」
扉を開けて、ダンブルドアに謝る。
ダンブルドアは気にしてないと言って、クルリと向きを変えて歩き出す。
「...今は夏休みですか?」
生徒の姿が見えないのでダンブルドアに尋ねると、にっこりと頷く。
「君は見たところ十一歳だが、どこか大人びておるようじゃの」
ダンブルドアが確信を持ったように口を開いた。
それを聞いた朱雫は、困ったような顔をした。
言っていいのだろうかと不安を表に出さないように考える朱雫。
相手はWあのWダンブルドアだ。最も偉大な魔法使いとして知られる相手をそう容易く騙せるわけないことは百も承知だ。だか、これは朱雫の秘密に触れること。朱雫とて、易々と秘密を明かすことはしない。
「安心しなさい、深くは聞かんよ」
─困ったことがあればいつでも言いなさい
朱雫の考えていることが伝わったのか、ダンブルドアはそれだけ言うと大広間の扉を開いた。
「皆の者、突然じゃが孫を紹介する」
入ってきて早々、朱雫に視線を向ける先生方に言い放った一言。
「孫ですか...?アルバス...貴方に孫などいらっしゃらなかったではありませんか」
大きな帽子を被った女性が困惑したように口を開いた。この人もまた、見覚えのある人である。
「昨日から、儂の孫じゃ」
「そんな急な......」
呆れたように声をもらす女性。他の先生方も同じ心境のようだ。
「色々事情があっての、儂が引き取ることになったのじゃ」
ダンブルドアのその言葉に、先生方は詳しく聞くことを諦めたようだった。
「今年からホグワーツに入学することになっておる、皆のものよろしく頼んだぞ」
ダンブルドアはそう言うと、朝食に手をつけ始めた。ちなみに、朱雫はダンブルドアの隣だ。したがって、先程の女性とダンブルドアの間にいる。
「副校長のミネルバ・マクゴナカルです」
「シュナ・レイキ...です」
ペコリと小さく頭を下げる。
「まぁ、レイキ?」
「あの、母はここの卒業生でした…」
「えぇ、あなたのお母様は素晴らしい魔女でしたよ」
にこにこと嬉しそうに語るマクゴナカルだったが、先程のダンブルドアの言葉を思い出したのか、深刻な顔をした。
それに目敏く気付いた朱雫は困ったように微笑むだけだった。
「困ったことがありましたら、遠慮なく言ってくださいね」
マクゴナカルはそう言うと、席を立った。
朱雫もやっと朝食に手をつけ始めたのだった。
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