ナズナ

□魔法薬学初日
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「ポッター!」

スネイプが鋭い声でハリーの名前を呼んだ瞬間に朱雫は来た、と思った。これからこの先6年間続く彼のハリーいびりの幕開けである。

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えるとなにになるか?」

スネイプからの突然の問題に一体なんの事だと固まったハリーとは裏腹に、ハーマイオニーは素早く手を床と垂直に挙げた。
わかりません、とハリーが答えると、スネイプはせせら笑った。

「チッ、チッ、チ───有名なだけではどうにもならんらしい。ではポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

この問題にもハーマイオニーがいち早く手を挙げているが、スネイプの視線はハリーにしか向けられていない。見向きもされないハーマイオニーをドラコ、クラップとゴイルの三人が身をよじって笑っている。
自分たちも分からないくせに、人のことを笑える余裕があるのね、と朱雫は三人を冷たく一瞥した。

「わかりません」

「授業に来る前に教科書を開いてみようとは思わなかった、というわけだな、ポッター、え?」

教授楽しそうだなぁ、と朱雫は頭の片隅に思う。
ベゾアール石はともかく、最初の問題はO.W.LsないしN.E.W.Tレベルの内容である。そんなレベルの高い内容を、つい最近までマグル生活で魔法なんて一切知らなかった十一歳の少年が知っているわけもない。
ひっくり返せば、ハーマイオニーも両親がマグルで、最近までただの人間として生きていたのに、そのレベルまで知識を広げているという博識さは目を見張るものである。

「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

二度も無視されたハーマイオニーはついに椅子から立ち上がって、伸ばしていた手を更に伸ばした。

わかりません、とハリーは三度目になる言葉を吐き出した。

「ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

そのあとにハリーが続けた言葉に何人かの生徒が笑い声を上げたが、その態度が鼻についたのか眉間のしわを一層深くしたスネイプはハーマイオニーに座りなさい、とぴしゃりと言った。
さてさて、とスネイプの動向を視界の隅に捉えながらも朱雫は人知れずメモの用意をする。
その時、スネイプの視線がゆっくりとこちらに向いたのに気付いた。朱雫もゆっくりと視線をスネイプに向けると、ばちりと真っ黒の瞳と視線が合わさった。

「Miss.レイキ」

「、はい」

先程とは打って変わって穏やかな口調のスネイプに名前を呼ばれて、一息遅れて朱雫は静かに返事をした。

「私の質問に答えてみたまえ」

その言葉にクラスの人間の視線が集まってくるのを感じ取った。
夏休み中の自習の進度を知っているからか、スネイプは朱雫にそう言った。
ううん、そう来たか、と朱雫は内心困った顔をしたが、ここで口答えしてもいい結果にならないのは目に見えているので、素直に口を開いた。




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