ナズナ

□魔法薬学初日
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レイブンクローの生徒から離れた朱雫は地下牢に入ってすぐに見つけたアシンメトリーな髪型に近付いた。

「間に合った……」

「……遅い」

「ごめんねノットくん、ありがとう」

廊下は走らないという校則を律儀に守った朱雫は、競歩並の速さで地下牢へとたどり着いた。
急に押し付けた朱雫の教科書たちも何だかんだでセオドールの隣に鎮座している。
彼の表情はいつものように無表情だが、朱雫にはムッとしているように見えた。

「それで」

「え?あぁ、あのレイブンクローの先輩具合悪かったみたい」

「…それだけか?」

「他寮生だったとしても体調悪い人を見捨てるほど私は非情じゃないよ?」

「はあ」

「自分で聞いておいてその反応はひどくない?」

生返事のような相槌をするセオドールにそう言うと、ツーンとそっぽを向かれてしまった。

魔法薬学の教室である地下牢はまだ9月だというのにひんやりとていて、薄暗かった。
さらに犬猿の仲であるグリフィンドールとの合同授業だ。
更にこのあと起こる事故にもどう対応しようかと昨夜から頭を悩ませている朱雫だった。
そして授業開始まであとちょっとというところで、ハリーとロンが駆け込んできた。



バンッと盛大に扉が悲鳴をあげる中、颯爽とスネイプが地下牢に足を踏み入れると、そのままの勢いで再び扉が悲鳴をあげて閉まった。
途端に騒がしかった教室は静まり返る。

静まり返った地下牢でスネイプの出席をとる声だけが響く。
そしてハリーの名前のところで一瞬止まったかと思うと、嫌に落ち着いた声でのたまった。

「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しい──スターの登場だね」

ドラコたちがそれを聞いて嘲笑する。
出席が取り終わるとそのままスネイプは話し始めた。

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

ひんやひとしたこの暗い空間に彼の声が吸い込まれそうな気さえした。

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君も多いかもしれん。
ふつふつと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとはとうてい期待しておらん。
私が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である──ただし、私がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであれば、の話だが」

スネイプのあの大演説な終わるとクラスは一層シン──と静まり返っていた。
ちらりと朱雫がハリーやロン、ハーマイオニーに視線を向けると、二人は眉根を互いに少し釣り上げて目配せした。何を言っているんだという心境だろうか。
ハーマイオニーに至っては一刻も早く自分がウスノロではないと証明したくて待ちきれない、といった様子だった。




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