ナズナ
□ダイアゴン横丁
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スネイプは、朱雫が杖を二本持つことに不満そうな顔をする。
「ありがとうございます、オリバンダーさん。それで、本当に差し出がましいのですが、杖のオーダーを頼みたく…」
「レイキ…まだ入学もしておらんのにオーダーメイドの杖かね?」
「だから差し出がましいですがって前置きしたんですよ。それにオリバンダーさんに頼んでるので、口出ししないでください」
ムッとしたように、朱雫はスネイプに振り返って反論する。
スネイプの嫌味、というか正論は最もなことだし、急ぐ必要もないのだが、頼むなら今のうちに頼んでしまおうという朱雫の考えだ。
ホグワーツは基本的に校外への外出は出来ないらしいし、この時期を逃したら次に来るのは一年後になるだろう。
「材質は香木の白檀、芯は八咫烏の尾羽を希望しているのですが…」
そう言って朱雫はカバンの中から懐紙に包まれた、まるで漆塗りしたような艶のある真っ黒い尾羽と、ふんわりと香る香木を取り出した。
「ヤタガラスとな…?」
「ヤタガラスとは、日本神話に伝わる神獣です」
─または神の分身とも言われる獣である。
「なんと素晴らしい…」
うっとりしたように、朱雫から八咫烏の尾羽を受け取る。
「初めての素材ばかりですから、時間がかかるかもしれませんが、それでも?」
「構いません。オリバンダーさんの腕を見込んでのオーダーですから」
朱雫はニコリと微笑んで、香木もオリバンダーに手渡す。
「この木もとてもよい香りがしますな」
「えぇ、私の一番のお気に入りなんです」
お代はいくらかと、尋ねるとお代は完成してからの後払いでいいとオリバンダー。
「本当ですか?じゃあよろしくお願いしますね、とっても楽しみにしています」
ペコリと頭を下げた朱雫はそのままクルリと体の向きを変えて、スネイプと共に店を出た。
オリバンダーの店を出ると、スネイプが口を開いた。
「せっかく両親が用意してくれた杖を使わないとは、理解しかねる」
「そうですね…出来れば私も使いたいと思いますが、万が一折れたりなんてしたらと思うと怖くて」
「それは両親から貰ったと、言っていたな」
「えぇ、さっきも言いましたが、両親からは御守りだからと言って簪として貰ったものです。保護術を施したと言っていましたし…」
「お前の両親は、こうなることを知っていたのだな」
「…そうかもしれませんね」
ダイアゴン横丁を歩きながら、ふと目に入った看板。
イーロップのふくろう百貨店
「あの、少し見て行ってもいいですか?」
「…早くしろ」
「ありがとうございます」
朱雫はスネイプに礼を言うと、店の中へと入る。
表にもふくろうがいたが、何故か店の中に引き込まれる。
「…あの、この子って…」
「あぁ、こいつかい?こいつは白ふくろうだよ。何故だか生まれた時から真っ黒だがな。客は信じやしねぇから誰も買いたがらねぇ」
白や茶色に囲まれたふくろうたちの中で、一匹だけ真っ黒いふくろうがいた。
白ふくろうなのに、真っ黒だということは、メラニズムか何かなのだろう。
「いくらですか」
「このまま売れねぇようなら殺処分か野生に─…なんだって?」
「いくらです?」
「嬢ちゃん、こいつを飼うつもりかい?」
「えぇ、いくらです?」
「21ガリオンだ」
店員の告げた値段を渡し、黒い白ふくろうを受け取って店から出た。
「すみません、お待たせしました」
「黒いフクロウか、珍しいな」
「そうですよね。種は白ふくろうみたいです」
「…魔法か何かかね?」
「いえ、おそらく先天性のメラニズムでしょう」
「メラニズム?」
「アルビノをご存知ですか?」
「確か個体に色素を持たない生物のことだったな?」
「はい。メラニズムはその逆で、色素過剰のため、本来あるはずの色や模様が消えて黒一色になることです」
「なるほど…実に興味深いですな」
スネイプは、籠の中の白ふくろうをじっと眺める。
そこで会話は終わり、人気のない場所に来るとスネイプが右腕を差し出す。
それに無言で手を添えて、ダイアゴン横丁から姿くらましをし、ホグワーツへと戻って行った。
─必要なものは揃った、さぁ、物語の始まり始まり─
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