ナズナ

□ダイアゴン横丁
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次は鍋を買いに店へ向かった。
早々に鍋を買い揃え、次は薬瓶を一式。そしてスネイプが持っていると便利だと言った、秤を一つ。低価格の割にはモノがいいとか何とか。
先程とは打って変わって、さっさと買い物をさせるスネイプ。

「残りは杖だけだな?」

「そうですね」

オリバンダーの店─紀元前382年創業 高級杖メーカー─


杖を買うために、店に向かうと何やら凄い年季の入った雰囲気だ。
中へ入ると、天井近くまで積み重ねられた何千何万もありそうな程の細長い箱が所狭しと山になっている。

「おや、これはこれは…珍しいお客様だね」

店の奥から店主のオリバンダーが出てきた。

「君のお母さんが杖を買っていったのがつい昨日のことのようだ、もちろん若きスネイプさんもね」

と言って笑うオリバンダー。

「さっそく杖を、と言いたいところですが既に持っておいでのようだ、拝借しても?」

「私は杖持っていませんよ?」

「なんと!気付いておられないとは!あなたが髪を纏めているそれが、あなたの杖ですよ」

オリバンダーは朱雫の簪を、指差した。

「簪がですか?そんなはずはありません。これは両親から貰ったものですし...」

「ふむ、カンザシとな。遥か東の極東の地の物であると聞いておりますが、確かにそれは杖の魔力を感じる」

オリバンダーは興味深そうに、拝借していいかと、朱雫に訊ねた。
戸惑った顔をしながらも、朱雫は簪を髪から引き抜き、オリバンダーに手渡す。

「なんと美しい......こんなに美しい杖を私は初めて見た...」

ほぅ、と息を呑むオリバンダー。

ヒノキに漆塗りした表面に、蒔絵が無造作に施され、根元にはガラスの椿の装飾が垂れている。

「ふむ...なんと!!!芯は鬼の角に大天狗の風切羽、ヒノキに杉の葉と蕎麦の花。...実に複雑な融合、実に見事だ......」

簪をしげしげと眺めながら、うんうんと大きく頷くオリバンダー。

「25cmでしなやかであることもなかなか...」

「...それほどまでに価値のある物なのですか、その杖は」

しびれを切らしたようにスネイプが口を開いた。

「ややっ、これはいかん!つい興奮してしまいました!価値があるも何も、世界中どこを探してもこのような素晴らしい杖はありませんよ、スネイプさん」

オリバンダーは簪がどれほど素晴らしいかを語り始めた。

まず、芯が鬼の角と大天狗の風切羽で複雑にその二つが最大の力を引き出せるように融合されている事が1番の素晴らしさだと言う。
魔法界には存在しない、日本のおとぎ話であると言われてる生き物の最も魔力を秘めていると思われる角と風切羽。
次に、ヒノキに杉の葉と蕎麦の花を融合させていること。
そして見事な漆と蒔絵にガラス細工の椿の装飾。このガラス細工の椿も、本物の椿に保存呪文をかけ、ガラスで覆ったものだと言う。
そして、本来の杖作りとは逸脱した秀逸極まりない手法だということ。

「この杖の素晴らしさは成り立ちもそうですが、杖に込められた意味も素晴らしいのです」

オリバンダーは高揚とした顔で告げた。

「まずヒノキの木には“不滅”という意味があり、杉の葉には“あなたのために生きる”、蕎麦の花には“あなたを救う”、そして椿には“常にあなたを愛す”......。
つまり、この杖はあなたが心から愛した人のために使う杖なんです。
更に、この杖の表面に描かれた一輪の花...これはナズナとお見受けする。ナズナには“あなたに私の全てを捧げる”という意味があるのです

この杖は、あなたの大切な人を思う心の強さが反映する」

オリバンダーの声が店じゅうに響き渡った。




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