ナズナ
□ダイアゴン横丁
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「しかし、まだこの杖を使ったことがないようですな…。持って振ってみなさい」
オリバンダーは、朱雫に簪を返すと、そう促した。
朱雫が簪を振るとシャラ、と椿が揺れる音がし、朱雫を包み込むように花の香りが広がった。
心が安らぐような心地よい光に包まれる。
「素晴らしい...なんと素晴らしい......!杖を振るだけでこれ程までとは...!」
何が素晴らしいのか朱雫には全く分からないが、オリバンダーは先程よりも高揚した様子で、朱雫に詰め寄る。
「この杖は、他のどの杖よりも魔力を秘めている。それは、杖の芯となっている鬼角と風切羽が莫大な魔力を秘めているからだ。そして、あなた自身にも莫大な魔力を秘めている。
他の人が成せないことも、あなたならきっと成すことが出来るでしょう...きっと、偉大なことを......」
オリバンダーはそう言うと、あなたの偉業を楽しみにいていますよ、と微笑んだ。
「...あの、本当に個人的理由なのですが、もう一本杖がほしいんです」
オリバンダーに向けられた微笑みを気まずそうに朱雫が口を開く。
「もう一本ですか?しかしあなたは既に杖をお持ちでいる...」
困惑したように、オリバンダーが考え込む。
「その個人的理由とは何なのかね?」
入口のすぐ脇に立っていたスネイプも怪訝そうに朱雫に尋ねる。
個人的な理由は個人的な理由だからこそ言えないから、個人的な理由と言うのだけれど、と朱雫は思ったが、本当の思惑に気付かれないように、当たり障りのない回答をする。
「この簪は御守りなので、杖として使うことは出来ません。両親の形見でもあるので、この簪のことはご内密によろしくお願いしますね」
「...あなたがそこまで言うなら、お受けいたしましょう」
じっと朱雫の目を見つめていたオリバンダーが、そう微笑んだ。
朱雫はそれを聞くと、とても嬉しそうに微笑んだのだった。
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